
最東対地の呼びかけで、最東対地、川越宗一、尼野ゆたか、寺地はるな、和泉桂、額賀澪、逸木裕、水沢秋生が「編集に怒られる!」をテーマに書いた作品集。こんなの面白いに決まってるでしょ。
そして鈍器は振り下ろされる(逸木裕)
自分の作品が売れないことの責任を編集に求め、拉致監禁拷問する。その拷問の内容が、それまでに編集がつけてきた「帯」に由来するもの。その内容がすごく面白かった。自分の周りに職業作家さんはいないので、この編集への憎悪がどのくらい事実に基づくのかは分からないけれど、なんかリアルで生々しくてでもコミカルで深刻になりすぎなくてすごくよかった。
息子(川越宗一)
書かなければならない原稿を書かずに、息子の話す喃語から連想した物語を空想しまくる話。ひゃー小説家ってこんなふうに想像を働かせることができるんだと感心した。どの物語もすごく面白かった。あとがきで編集に怒られてるのもNICE!
7人の文士(最東対地)
小説家、書店、出版社を別の概念に変え、それぞれの抱える問題を、その別の概念の文脈で書いていく。小説としての体ではなく、「登場人物の説明」という形式で書かれているのだが、それがすごく面白い。sentenceという概念が面白かった。seven sentencesのそれぞれの自己紹介の「あるある」が「そうなんだ」って面白かった。他も「あるある」なので業界について詳しい人が読んだらもっとめちゃくちゃ面白いんだろうし、確かに編集には怒られそうかもと思った。一番編集に怒られそうなんじゃない?作者あとがきがラノベっぽくてよかった。
そして十年の月日が流れた(水沢明生)
とある野球選手の一生の話。十年ごとのできごとを追う。
これは編集に怒られる要素があるのだろうか……。内容は短編としてすごく面白かった。主人公に共感、とかは別に一切ないのだけれど、言葉少ない心理描写の切実さがすごかった。でも野球選手のとき嫌なやつだったんだろうなー笑。かなしくもあるけれど、力強さもあり、でもさびしくて苦しい物語だった。最後少しよかったねって思った。一生懸命生きていればそういう奇跡みたいな出来事も起こるのかもしれない。
小説家デビュー1年目の教科書〜新人作家の自分に教えたい10の原則と25の具体策〜(額賀澪)
筆者がデビュー一年目の自分に伝えたかったTIPS。これは作家デビューを狙う人にとってはおそらく有用で、デビューする前に読んでおくのがいいと思う。こういう業界ハウツーものが編集から嫌われるって知らなかったな。知っててくれた方が楽でいいじゃんみたいのもあるし。とにかくでも大変そうだなと思った。主にスケジュール管理。マネージャーいないんだものなあ。
十字路に佇む者は 第一話「青邱子の歌」(尼野ゆたか)
文人に憧れる高啓が魂を売って才能を手に入れたあとの人生の話。
高啓は明長初期の詩人だけど初見だった。本当に「青邱子の歌」という作品を書いている。知識があればもっと楽しいのかもしれない。
これも、小説家の人ってインスピレーションでこうやって広げられるんだなあとすごいと思った。明朝の頃の知識階級の話ってなんか好きだな、すごいんだけどなんか息苦しい感があったりして。
深淵(和泉桂)
和泉カツヲが最東タイヨに「編集に怒られる」原稿を依頼され、どんな原稿を書くか話し合いながら思案する。同人誌に参加するため原稿が遅くなることを編集に告げると……
最後どこまでAIなのかわたしも混乱してきて笑った。
橋の上で(寺地はるな)
長男を妊娠中に小説を書き賞に応募しデビューした作家寺地はるなが、ある日小説を書かなかった世界線の自分自身を見つけ、出会い、あれこれある小説。これもどこまでが本当や本音で、どこからが虚構なのか分からず、言葉を借りれば「心がざわざわ」した。最後の方で「うるさいうるさいうるさい」と「わたし」に掴み掛かったシーンのすごみがすごかった(日本語)。救いの要素が一ミリもない。そうじゃないか。人間が生きていく上での清濁合わせ飲む力強さみたいのはあるんかな。これは編集には怒られないとは思うけど、困るだろうなとは思った笑。
全体として
すごく面白かった。名の売れた商業作家さんたちなんだから当たり前なんだけれど、全部文章も大変にうまいし、話も話の進め方もよかったし、キャラも立ってた。やっぱすごいな、小説家って。って思った。
こういうテーマになると、メタ的な作品になりがちなんだなと思った。でもそれは当然なのかもしれない。そしてそれが面白い。とくに編集と作家の話になると、自分たちもそこに巻き込んでくれた嬉しさみたいなものも感じたりする。わたしだけかもしれないが。
また、同じテーマでもいいし、違うテーマでもいいし、この参加陣の次の同人が読みたいと思った。