成田名璃子「東京すみっこごはん レシピノートは永遠に」

東京すみっこごはんシリーズ完結編。

「東京すみっこごはん」とは、下町のとある商店街を抜けた一角にある共同台所。その日に集まった会員がくじを引いて食事を作り、みんなで文句を言わず美味しく食べましょう、という集まり。
このシリーズは、この「すみっこごはん」を中心に、主人公の楓が様々な人の人生の岐路に立ち会い、なんかしらんがうまくおさまってめでたしめでたし、みたいな読んでいて揺さぶられることの少ない安心して読める作品。完結編の一つ前の作品「東京すみっこごはん 楓の味噌汁」では、いつものようにうまくいかない、ひたすらやるせない結構心が苦しくなる話もあったが、基本的にはみんないい人のウェルメイドなシリーズ。

さてその完結編。シリーズが好きな身として、どんなエンディングなんだろうとワクワクしながら読んだ。

 

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今作は、高校三年生になった楓が進路を決めかねているところから始まる。楓は、前作で救えなかった瑛太(母子家庭で、すみっこごはんに出会い高校へ行くため勉強に励んでいたが、結局働かなければならなくなってすみっこごはんも去っていった)のような子どもを救いたい。そのために、大学へ行って福祉の勉強をしてすみっこごはんの活動の幅を広げるか、大学へ行かずにすみっこごはんの活動に専念して瑛太のような子供を掬い上げるような活動をしていくか。その二つの選択肢で迷っていた。
おじいちゃんは好きなようにしろと言うが、すみっこごはん常連の田上さんたちに言われて楓は進学することにする。

そんな青春の悩みをよそに、取り巻く環境は変わっていく。

奈央と一斗が茅ヶ崎へ転居したり、柿本さんがチャンピオンについて渡米したり、丸山さんが八王子のNPOの活動を手伝うためにすみっこごはんを去ったり、また顔を出すようになっていた夜学に通う瑛太も大学進学へ向けてボランティアの大学生に勉強を教わるようになりすみっこごはんにこなくったり、田上さんが旦那さんの仕事の都合で博多へ転居することになったり。

そうして純也と金子さん以外のメンバーがみんな去っていった。
さらにじいちゃんまで余命半年だと言う。

こんな酷なことはさらさらない。ないのだが。

言い方を選ばずに言えば、雑にまとめたな、という印象。一人一人と去っていくことも、瑛太が帰ってくることも(のちにまた顔を出さなくなるが)、じいちゃんが死ぬことも、レシピノートが”盗まれる”ことも、物語を完結するために都合のいい話を単に全部載せにしたという感じ。

まず、人、去りすぎ。ここは楓が「むかつく」という感情を抱えたり、呆然としたりとはしていたのだが、こんな都合よく去らんだろと思ってしまう。
さらに、人が死ぬとわたしは泣くので雑に泣くのだが、そしてこの作品の作風的に暗くなりすぎずさらりと過ぎていくのが合っているとはいえ、出来事に比して物語があまりに軽過ぎた。ヘビーな出来事なのにイージーにまとめた感じ。

まあ「東京すみっこごはん」に青春の苦悩や死を乗り越えることの困難さと切実さを求めても仕方ないが、読者に行間で補ってもらいすぎなんじゃないかと少し思った。

ただ、さきほども少し書いたが、このシリーズはそういうものなのだ。軽くさらりとウェルメイドに仕上げる。ご都合主義なのはいつも通りなのだ。その意味では、正解なのかもしれない。

本当は、完結編なので、もっとしっかり心に刻みたかった。
でもここまで感想を書いて気付いた。これでいいんだ、すみっこごはんは。ご都合主義でいいし、なんとなく全部うまくいく大団円でいいし、みんながやさしくすてきな世界線で問題ないんだ。すみっこごはんに何を求めるかだ。こういう「誰も悪い人がいない」「みんながなんとなくうまくいく」「ごはんがおいしそう」この三点で十分じゃないか。

という結論になった。

わたくしからは、以上です。