【歌集感想】老人ホームで死ぬほどモテたい / 上坂あゆ美

この歌集は全然思っていたのと違っていた。想像の真逆で、重く、苦しい短歌が多かった。タイトルからしてサラリとしているのかと思ったのだけれど、いやでもこれタイトルも重いな、内容知ってから読むと。ザ・ノンフィクション見てるみたいだった。

 

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生まれ育った環境がヘヴィー。喧嘩が絶えなかった父と母が離婚し、母についていく。母の彼氏と暮らす。父はフィリピンへ渡り愛人?恋人を作り、病気で死ぬ。母と姉はタトゥーを入れているような人たち。姉は地元で有名な不良で、主人公は人から「あの妹」と言われてしまうほど。だけれど頑張って大学へ行って働いて年金を払って好きな人もできて懸命に生きている。

という話なのだけれど、どの歌もかなりヘヴィー。

全員が飴を舐めずに噛みくだく似てないけれど母だし姉だ

似てない、というか、似ないようにしている母と姉だが、全員飴を噛みくだいて食べてしまうところに家族だと気づいてしまう歌。こういうの地味に重たいと思っていて、出来事だけ見れば大したことないのだけれど、こう、染みついたふるまいに共通点を見出す時ってどうしようもなく家族を感じたりしてしまい、そのことにハッとして呆然とする。普段、似ていないと心の距離を置いているからこその絶望がある。家族からは逃げられない。

手を握らないで人間にしないで ここが地獄だと気づいてしまう

じゅげむじゅげむごこうのすりきれ生きることまだ諦めてなくてウケるね

深い絶望が広がる。だけれど生きていたいと思う。「まだ諦めてなくてウケるね」は自分を俯瞰でみているわけなんだけれど、「ウケるね」というところに自分なりの失笑があるんだけれど、「まだ諦めてない」自分への気づきはここでは重要なポイントだろう。

懸命に生きてる 丁寧じゃないけど払っているよ国民年金

学生時代力をいれて生きてきた 生きていくんだたくさんの夜

生きる力、陽のさす方ににのびようとする力の本当に強い人だ。そしてそこに自覚的になることで、自分を認め、これからの自分を鼓舞しようとしているのだろう。「生きていくんだ」という決意は尊い。「生きること諦めてなくてウケるね」という思いになることも、きっとこれからもあるかもしれないが、力強く生きていきたいという願いはかけがえのない気持ちだ。

残念でした!!!わたし、わたしはしあわせです!!!!!!!!!道にゴミとかあったら拾うし

運命とか神様に「残念でした」と言っているのと同時に、この歌集を読んで気の毒に思った人に対しても言っているのかなと思った。大変だな、そりゃ死にたくもなるよな、気の毒だな、しあわせになって欲しいけど……みたいに思った人に対して、「いやしあわせですから!」と宣言しているのかなと。道にゴミとかあったら拾うってだいぶいい人だし、だいぶ心に余裕がある人だし、それが「しあわせ」の象徴として使われるのちょっと合っててちょっと面白いなと思った。

 

という感じで、全体的に重めの雰囲気なのだけれど、不遇に沈みきらない、不幸を所与のものとして諦めないという感じが力強い歌たちだと思った。
30首作って応募したらしく、そこからこれすごい勢いで歌作ったんかと思うとすごいなと思った。