「ミニカーを捨てよ、春を呪え」「星が人を愛すことなかれ」「枯れ木の花は燃えるか」「星の一生」の4作からなる短編集。
レーベルがジャンプジェイブックスなのもあって、全体として、平易でキャッチーな文章。「回樹」や「本の背骨が最後に残る」をイメージして読むと全然違う文体に驚くかもしれないが、こうしてチューニングできるところが実力と言えるのではないかと思う。
本書の「ミニカーを捨てよ」と「星の一生」は、既刊の「愛じゃないならこれは何 / 斜線堂有紀」という短編集の中の「ミニカーだって一生推してろ」の続編というか、相互補完編。どちらも読んだ方がよりよく分かって楽しい。
「ミニカーだって一生推してろ(愛じゃ無いならこれは何)」「ミニカーを捨てよ、春を呪え」「星の一生」は、アイドルグループ東京グレーテルの赤羽瑠璃、その熱烈なファンのめるすけ(名城渓介)、その恋人の牧野冬美の三人をめぐる恋愛模様が描かれている。「ミニカーだって一生推してろ」は瑠璃、「ミニカーを捨てよ、春を呪え」は冬美、「星の一生」は瑠璃の視点から描かれており、めるすけだけがすべてを手にしているというアンバランスさ、瑠璃と冬美それぞれがそれぞれに対して抱く優越感と劣等感が描かれている。
しかし瑠璃が勇気を出して一歩踏み出していたら、物語はどうなったのだろうか。でもそうなったとしても、きっと同じようにめるすけだけが幸せになるんだろう。そんな気がする。いやめるすけも、冬美からのあたりのキツさとかしんどいことはあると思うんだけど、結局全てを手にしたのはめるすけだけだから。
「星が人を愛すことなかれ」は、人気Vチューバー羊星めいめいこと元東京グレーテルというアイドルグループにいた長谷川雪裡の仕事と恋愛をめぐる物語。アイドル時代には成し得なかったことを、Vチューバーとして果たしていく、それを超えていく中で、手に入れたものと失ったもの、失い続けていくものが描かれている。なんかアイドルとかのストイックさを感じて、実際どうなんだろうと考えたりした。この作品でも赤羽瑠璃は出てくるが、やはりストイックなアイドルとして出てくる。しかし。
「枯れ木の花は燃えるか」は、地下アイドル帝都ヘンゼルの民生ルイと同じく地下アイドル東京グレーテルの香椎希美とその他ルイの「繋がり」たちをめぐる物語。好きな人とその浮気相手(お互いにお互いをそう思い合っている)がいて、どうしても好きで執着してしまうが故に行動してしまって、結局全てが破談になるなかうまく折り合いをつけてやっていく人もいたりして。
と、いうことで、キャッチーで軽い文体で結構考えることが多いテーマへの答えを追求しているというか一つの答えを丁寧に描写している作品たち。サクッと読めるが、純文学やミステリやホラーを求める斜線堂好きにはちょっと違うイメージを持つかもしれない。わたしはこの斜線堂も好きですよ。
表題作「星が人を愛すことなかれ」は、「ミニカーを捨てよ、春を呪え」にも「星の一生」にもかかっているし、また、「枯れ木の花は燃えるか」にもかかっている。すべての作品を読むとすべての作品の意味が変わる。そんな短編集だ。