【読書感想】詐欺師は天使の顔をして / 斜線堂有紀

子規冴昼は霊能者……のように振る舞う。仕掛け人はサークルの後輩だったマネージャーの呉塚要。人々の心を掴んでやまない子規という存在は、詐欺師である要によって見出された唯一無二の才能ということだ。二人は手を組んで、子規は霊能者を装い、要の指示に従って死者と会話し、事件を解決し、名声を恣にした。しかし人気絶頂の中、子規は失踪する。要がいくら手を尽くしても見つからず、死亡説も出る中三年の月日が経った。
ある日、子規から要に電話が入る。次に謎の電話があり、その指示に従うと、要は自分の知らない土地にいる。そこでは人間であればすべての人が、「キャリア」と呼ばれる超能力、手を使わずにものを掴んだりできる能力を有している世界だ。子規はその世界で殺人の嫌疑をかけられている。その疑いをはらすべく、要は画策していく。

 

 

<ネタバレあり>

斜線堂有紀この手のキャラ大好きなんだなと思った。何か目的を達成する為に(程度の差こそあれ)モラルに反することをするキャラ。個別の真実より全体の幸福(「幸福の相対値」と書いてあった)を優先するというか。いや昨日読んでいた「プロジェクト・モリアーティ1」がそうだっただけかもしれん。でもまあ好きなんじゃないかな、すごく生き生きと描かれているから。

(追記:そうではないらしい。そういうキャラによって人生がめちゃくちゃになっている方が好きだから結果的にそういうキャラを作ることになっているらしく、子規冴昼より呉塚要が好きなんだそうです。そりゃそうか、そっちが主人公なんだから。失礼しました。わたしが好きなだけだわ。

でした)

第一話は結構解決編に無理やり感があった気がする。曽根がバカにされたと感じた気持ちに、読者がいまいち共感できないからかもしれない。これはこの世界の住人じゃないと分からないことだし、わたしたちはこの世界の住人じゃないので分からない。だからなんか動機が弱く感じて、転じて事件が相対的に矮小化されてしまっている気がする。

第二話の方が面白かった。こちらは、人が死んでも戻り橋を渡って戻ってくる、「消滅」という意味の「死」が存在しない世界だ。人々はさまざまな要因で死ぬが、戻ってきて永遠に生きる。だから殺人の罪も一年だったりする。第一話が解決し、また別の世界に転移してしまった子規を追って要はこの世界に来る。すると、同じく世界を転移している女性ヘルベルチカとそれを毎度毎度追ってきている美見川に出会う。ヘルベルチカはこの転移する者を「ヴァンデラ」ドイツ語で彷徨者という意味の単語で呼んでいた。
第二話では、子規と要の二人が、ヘルベルチカが美見川に殺された事件を無関係の事件と結びつけて犯人に自首させ、美見川が犯人として逮捕されることのないように工作する。美見川がヘルベルチカを殺した動機、その事件を別の事件にするために自分の死体に工作をしたヘルベルチカの思い。それらが交錯し、結構切ないキュッと来る物語になっている。とてもよかった。

そしてエピローグ。
今度は鉄道の中の世界。また探しに来る要。第二話の世界で、実は要を殺そうと思っていたほど思い詰めていた子規、それを知っていて決断を委ねた要。二人はそれぞれの想いを語る。第二話と同様胸にキュッと来る。子規の決意と要への信頼。
そして、この世界では「四季」は巡るものではない。「四季」はそこにあり、列車(人間)の側がその場所へ進んでいき、通過し、次の季節へとまた進む。この「四季」が「子規」なのは言わずもがなで、この二人の今の関係性を表している。というのもまたよかった。

全体的にとても読みやすく、ハートウォーミングだけどちょっとズラしてもあって、なかなかによかった。続編が出そうな気がする。続編を希望する。