八雲の母は、身体が徐々に塩に変わっていく「塩化病」を患っている。小学3年生の八雲は他人の痛みを自分の痛みとして感じてしまう幻肢痛のアレンジ版みたいな特性があり、母の感じる痛みやあった場所に無い腕のその空白を痛みとして感じてしまう。ある日その痛みを和らげるために桜の花びらを拾って回った。そんなときに、音楽室からピアノの音が聴こえてくる。その美しい音色に惹かれ音楽室に行くと、ピアノを弾いていた揺月と出会う。
やがて母は死に、八雲は揺月と親密になっていく……
<ネタバレあり>
わたしは涙脆いので普通に泣けるんだけれど、ちょっと要素詰め込みすぎだと感じた。塩化病の母、幻肢痛のような痛みを感じる特性、いまいち売れなかったピアニストがその娘に虐待じみた練習を強要する、父は見て見ぬフリ、震災、震災関連の心因性の症状、片目の父ちゃん、小説、義足で活躍する清水、精巧な機械義手、手の無い少女の葛藤とその克服、妻となった恋人の塩化病での死、引きこもり、大切な場所の喪失と再発見、揺るぎない友情、などなど、それだけで一本書けるんじゃ無いかと言う要素が全部載せ。
ということで、いまいち集中して悲しめないんだな。悲しませたい、感動させたいポイントがありすぎて。あと、八雲のこと感受性が高い人物として描きたいと言う気持ちが先行している気がする。なんか、この小説の中で、いわゆる感動ポルノを批判していたけれど、たしかに淡々とした地の文は確かに何かを強調してかなしみを描こうとはしていないと思うけれど、泣かせようという意識は感じとれちゃった。
ただ全体として、文章は読みやすいし、それぞれのエピソードはいいし、まあ泣ける。泣けるポイントはいくつかある、上に書いた通り。つんと鼻に来る瞬間が何度もあったし、義手をつけた女の子が演奏するシーン、夢の中でみんなで行進するシーンはとても良かったと思う。
震災のことは、東京に生まれて横浜にいたわたしにはあまりよく分からないのだ。作者はきっと本当に福島の出身で、いろいろな風評被害に遭い、さまざまな悲劇が感動という名のもとに消費されていく様に怒りを感じているのだと思う。それは感じた。
って感じかな。
「祈り」についていくらか書かれていたけれど、舞城王太郎を意識してるのかしら。それはわたしの考えすぎか。
あと、2019年に斜線堂有紀が「金塊病」になったヒロインをめぐる小説を書いているけれど、それは読んだことがあったのか気になる。同じような特異な病気なので。まあ一方は価値のあるものになっていくもの、もう一方は価値のないものになっていくもの、という差はあれど。
でもいろいろダメだしっぽいことかいちゃったけど、Amazonレビューが4.6なので、わたしがうがってるだけなのかもしれない。4.6?
要素がもう少し少なければもっとよかったと思います、わたしは。今の段階でも良作だけれど、もったいないという感想。