芳ヶ江国際ピアノコンクールを舞台にした人間ドラマ。
振動と言われオーケストラとも共演をしていたが母の死をきっかけに表舞台から姿を消していた亜夜、子供の頃亜夜につれられ慣れない日本での生活の中でピアノに触れフランスに行ってから本格的にピアノを始めエリート街道を歩き始めた日系人のマサル、弟子を取らないで有名だったホフマンが自分の弟子であると名言師推薦状を生前に用意して送り込んできた謎の天才風間塵。その他、さまざ まなコンテスタントがたった一人の優勝をめざして演奏を披露していく。審査員もコンテスタントも本気の2週間。一体何が起こるのか……直木賞、本屋大賞受賞作
<感想>
音楽を奏でること、それを聴くこと、想うと言うことを、ここまで丁寧な表現で言語化することができるのか、とまず驚いた。
「美しい音」を表現するために、何行も何行も言葉を駆使して描写していく。上下巻になったのも、そうした丁寧な描写を続けていったからだろう。
わたしは、風間塵のような分かりやすい不思議な天才を愛しているので、それだけでも読んでよかった小説なのだけれど、マサルの主人公然とした佇まいや振る舞いも素敵だった。
何かを極めていくためには、実力の近いライバルが必要というけれど、この3人はきっと今後もそんな関係を保っていくのだろうと想うと、本当に奇跡的なこのコンクールに喝采を送りたくなった。
個人的に、ピアノを少々習っていたことがあり、今思うと無理にも程があるんだけどピアニストになりたいと思っていたことがある。アップライトだけれど本物のピアノを買ってもらい、家にそのピアノが来た日のことを今でも覚えている。本当に嬉しくて、毎日毎日大事に弾いた。
小4でやめてしまったので全然なのだけれど、社会人になっていっとき自己流で練習していたりもしたので、シンプルにコンクールで、人前で本気のピアノが弾けるの羨ましいなあとも思った。
ピアノに限らず、音楽をしたことがある人なら、それを言葉で表すことのむずかしさが分かるだろう。本作はそれを実現した。だからこその直木賞だし、だからこその本屋大賞だろう。
もちろん、心理描写も巧みだ。ゾーンに入ったときの感覚など知る由もないが、追体験することができる。明石がコンクールで入賞は逃したけれど奨励賞と菱沼賞を受賞して「この場所に立っていたい」と決意を新たにするシーンなど、夢を諦めた大人にはグッとくる。何歳になっても、なりたい自分をおいかけていいのではないかと思わされる。
視点がころころ切り替わるので、それが苦手な人は読みにくいかもしれない。基本的に主人公は亜夜だと思うのだが、風間塵がステイ先の主人に生花を習うシーンしびれたねえ。「生きてるんですよね、まるで死んでることに気づいてないみたいに」というようなシーンに鳥肌が立つ思いだった。
永遠が一瞬で一瞬が永遠。
実は続編の「祝祭と予感」を知らずに先に読んでしまったのだが、改めて読み返してもいいかなと思った。
ところで、「蜜蜂と遠雷」は映像化されていて、Amazonのプライムビデオにあるのを知ってたから一生懸命原作読んだのに、NHKオンデマンドに加入しなくちゃみれないんだってさ。けっ。そういうとこだぞ。
ということで映画は観れないが、いいのだ。一本まるまる映画を見たかのように目の前にすべてのシーンが浮かんで見える読書体験をしたのだから。
どうやら難産の小説だったようで、そりゃそうだよなあとも思ったってのは、おまけの話。
わたくしからは、以上です。


