同作者「武士道シックスティーン」の続編。
武士道シックスティーンの感想文↓
武士道シックスティーンで心を通わせ互いに認め合い高め合えるようになった香織と早苗が、早苗の転校で離れ離れになる。
早苗は見送りに来た香織にも新しい住所や学校を告げず、剣道も辞めるつもりだと話し、空港の奥へと消えていく。
本当は、福岡の剣道名門福岡南高校に転入し、剣道部に入ることが決まっていたのだが、それを言うことができなかった。
いざ福岡南高校に転入し、剣道部へ入部してくると、何もかもが違っていて……
<感想>
面白かった(語彙力)。
今回は主に早苗に重点を置いた物語だったように思った。もちろん、香織のパートもあるし香織の成長譚でもあるけれど、主人公は早苗だ。
前作と同様、視点が移動し交互のモノローグでストーリーは進む。
早苗は福岡南で、黒岩レナという仲の良い友達ができた。しかしレナが目指すのは、「スポーツ化した剣道」「高速自動化」など、武士道からは遠く離れていると早苗が思うおもうものだった。つまり、ルールを明確にし、厳格化し、ルールに反さないことはなんでもアリにする。たとえばしないを拳でパンチすることは反則とされていないからそうする。
そうした話を知っていくうちに、福岡南の剣道自体に不信感を覚える。勝つため評価を得るためのスポーツ。でも違う。剣道って精神の修練でしょうと早苗は言う。そうして、剣道自体が楽しいのかわからんくなっていくうちに、もといた東松の剣道を懐かしく思う。
ってなことで、新しい環境でもがき苦しみ答えをどうにか出そうとする早苗の物語が本作のメインである。その一方で、香織も後輩の田原の面倒を見ることなどで、「チーム全体」の強さについて考えたり、相手の気持ちを考えたりすることが増えるなど、成長が見える。
しかしやはり早苗ですよ今回は。
個人的には、黒岩レナに与する気持ちが無いわけではない。剣道のルールを明確化し厳格化し、スポーツとしての精度を上げていかない限り、海外の「武士道」とは程遠いスポーツと割り切った剣道に日本の剣道は負けていくだろう(と先生も作中で言っていた)。いかに効率よく点をとるか、とらせないか。
柔道もスポーツ化するときそういう葛藤があったのかなとか思いながら読んでいた。
「武士道は、倒すためでなく収めるためにある。」
なるほどねえ。
個人的には、香織と父、香織と兄の関係性がやわらなくなっているのが嬉しかった。香織の父、昭和の亭主関白親父なんだけど、いいやつなんだよなあ。
横浜市の大会に二人で出る所、桐谷道場で稽古をつけてもらう所。無駄が一つもない展開に下を巻く。
それで、最後に黒岩レナにかったら東松に帰ってきていいと香織に言われた早苗がきっちり勝ち、それでも「逃げるのは違うと思った」って福岡南に残る決心をしたことも、心が潰れる思いだった。抱きしめたい。いますぐ抱きしめたい。
世の中では「逃げていいんだよ」という風潮だしわしも「死ぬくらいなら逃げていいんだよ」とも思うが、子供の頃にある程度我慢したり克服したりした経験がないと、いざというときに踏ん張れないと言うのも本当だ。
がんばってほしい。がんばれ。
わたくしからは、以上です。
