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【読書感想】武士道エイティーン / 誉田哲也

 

同作者の「武士道シックスティーン」」「武士道セブンティーン」の続編。

そちらのかんそうはこちら(指示語)

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東松高校剣道部で最後の学年を迎えた香織と福岡南の剣道部で最後の学年を迎えた早苗。やたら電話をしてくる早苗に「敵なんだからインターハイまで電話してくんな」的なことを言う。

そうしてお互いに「インターハイで戦う」ことを目標として部活動に励む。どうなのかと思っていた福岡南の剣道の中にもいいところを見つけて好きを探して、レナとも仲良く練習を行っていた。

顧問の吉野の超法規的計らいによって、香織と早苗は双方がそれぞれの学校の大将を勤めることになるのだが……。

 

<感想>

今作では視点人物が増えた。早苗の姉でモデルをしている緑子、桐谷道場の主桐谷玄明、福岡南の剣道部顧問の一人吉野、香織の剣道部の後輩美緒。そのことで、物語に多層性が生まれた。

個人的にはとてもよかった。中には大人の事情のせいでひきさかれる恋や、しかしそれすらも踏み台にしてのし上がっていく強さ、桐谷道場が他と違った稽古をしている理由、先代道場主隆明の覚悟とそこから託された思い。

そうですね、「綺麗事だけじゃ生きていけないんだよ」ということが本作からは滲み出ていた。「割り切れることばかりじゃないけど、割り切らなくちゃならないこともあるんだよ」とも。

でもそれが物語に暗い影を落とすのではなく、一人一人の成長に繋がっていくところが見事だと思った。

作中、インターハイを前に早苗は怪我をする。靭帯の断裂だ。日本舞踊仕込みの独特のステップが靱帯に負担を与えたんだろうと言うことだった。
しかし、インターハイ団体戦1回戦大将戦で、早苗は香織を相手に最大限の剣道を魅せた。二人とも真剣に、楽しみ、この時間のために励んできたことを誇りに思っただろう。しかし途中で怪我をしている早苗が不利な展開となり、香織が勝利する。そのとき、香織はすぐに早苗に駆け寄って声をかけ、お姫様抱っこで場外へ運ぶ。

あの香織が。本当にぐっとくることばかりだ。

早苗は剣道をやめる、と言うが、香織が剣道推薦で進学する大学と、早苗が哲学を学びたいと思って浪人を決め目指している大学が同じであることがわかり、これはわからんぞ、と思った。

それにしてもいいね。本当に青春物語を読むと、「わたしはこんなに何かに没頭しなかった」ということと「こんなに分かり合える友達なんていなかった」ということにいつもコンプレックスを刺激される。でもその分こうして物語を摂取することで、そうだったかもしれない自分を思い描いて、少し救われるのだ。

ありがとうございます。

わたくしからは、以上です。