先週更新していなかったので二週間分更新する。
窓際のトットちゃん(黒柳徹子)
この小説は特別すぎる。子どもの頃買ってもらってボロボロになるまで読み、結婚してほとんどすべての本を処分した今でも手元に残している大切な小説。文庫版を買って久しぶりに読んだ。
ご存知の通り黒柳徹子の自伝的小説。一年生にして小学校を退学になったトットちゃんが新しく通い始めたトモエ学園でのびのび自然に生活し、少し成長もしていく話。
トモエ学園は一学年に10人程度しかおらず、教室として廃線となった電車の車両を利用している。他にも授業内容とか行事とかが独特で、いわゆる「ふつう」の小学校の枠ではカバーできていない子たちも受け入れている。
わたしは小学生時代(というか中高大も職場も今でもずっとか)、自分が周りにうまく馴染めていないことに自覚的であったため、トモエ学園にめぐりあえたトットちゃんが本当にうらやましかった。この小説で描かれているトットちゃんは自由でのびのびしていて、この学校に通ったらきっと自分もそういうふうに無理せず生きていけるんだろうし、トットちゃんと友だちになったら絶対楽しい。何度も何度もボロボロになるまで読み返して、空想の学校で楽しく遊んだ。
そんな子ども時代のことを思い出してセンチメンタルな気持ちになった。トットちゃんが楽しそうで本当に良かった。
君のクイズ(小川哲)
生放送でクイズのナンバーワンを決めるQ-1の決勝で対戦相手がいわゆる「ゼロ文字押し」をして正解して優勝する。負けてしまった主人公が、このやらせにも思える「ゼロ文字押し」の真相を探っていく物語。
クイズプレイヤーのものの考え方とか類推する方法とかがわかってそれも楽しめた。そんなところ見てるんだとか、そんなふうに勝負をかけてるんだとか。思ったよりずっと深くて、人生のすべてを利用してクイズという競技に臨んでいる。
面白かった。
そして、バトンは渡された(瀬尾まいこ)
大変よかった。ハートウォーミングな家族ものだのだけれど、家族が変わりまくってきた末の家族ものだから、その葛藤や不安や克服が描かれていてよかった。基本的に悪い人が出てこないので心が弱っている時にも安心して読めるのもいい。
時間の経過が必要だから第一部と第二部が分かれてることには意味があるし分かるんだけど、なんか第二部が後日談のようになっていてもったいなかった。とはいえ言いたいことは第二部に書いてあって、そのことが言いたくて第一部があったんだよなとも思うので、そういう意味では第二部は必要だしメインなのだけれど、第一部もとてもよかったので、なんか薄まってしまった。
うれしい近況(岡野大嗣)
岡野大嗣の第4歌集。すばらしかった。前に木下達也と共著の「玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ」を読んだことがあるが、そのときはどちらが書いている短歌かわからないようにたしかなっていたので、「岡野大嗣」にどハマりすることにはならなかったのだが、このジャケ買いした「うれしい近況」はよすぎた。
誰だろう毛布をかけてくれたのは わからないからしあわせだった
トランクを よっ と浮かせてやり過ごす段差のあたりに旅の楽しさ
あなたとの電話をラジオと呼んでいた 私書箱に死があふれる夜は
音楽(岡野大嗣)
「うれしい近況」がよすぎたので二日後に購入していた岡野大嗣の第三歌集。やはりよかった。
「うれしい近況」に比べると字余りや句またがりが多くて一瞬(自分は初心者なので)読みにくい歌もあったけれど、そんなことものともしない。
赤が好き ライブ終わりに来た道を雑にたどって待つ信号の
前が見えるていどに下を向いて歩くときどき前が明るくて見る
お湯になるまで流してしまう水 涙にもその段階がある
「うれしい近況」と「音楽」については暑苦しい記事を書いたので興味がある方はそちらも。
冒険者たち(ユキノ進)
ユキノ進の第一歌集。今まで読んできたような短歌とタイプが異なる短歌が多くて新鮮で楽しかった。サラリーマンの短歌。
あー飲料メーカーの営業をやっていて単身赴任で新潟に行っていて子どもが小さいんだなーとか、短歌の主人公の設定がはっきりしていて、そういうの自分はあんまり読んだことなかったなあ。その分想像の範囲は狭まるんだけど、設定をちゃんと明らかにしているから作れる短歌もあるんだなあとか。
夜の底で空を見上げる俺の眼に星座の形で飛び込む光
雪だるまは連れていけないな 雲(クラウド)に乗せてふたりに送る
人が人を裁く疾しさ 意欲とか責任感まで評価するのか
以上
久々に歌集を読んで楽しかった。また読んでいこう。先週今週はあまり小説を読めなかったので、来週はもうちょっと読んでいけたらな。