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個人的 #2023年の本ベスト約10冊 に感想をつける

個人的 #2023年の本ベスト約10冊

X(twitter)で「#2023年の本ベスト約10冊」というハッシュタグが流行っている。年末だからだ。ってそれは当たり前なんだけど。

で、便乗してツイートした小説たちについて、感想をつけてみたのがこの記事。ほぼネタバレはありません。個人的な話で言えば、新刊を買うお金が無いので、文庫化している既出版作が主になっている。許してくれ!

 

恋に至る病(斜線堂有紀)

著者初見。いろいろな偶然で手に取った小説だった。小説の出だしでは「大きく出たな」と思ったのだけれど、そんなものを遥かに凌駕するよく練られたすさまじい小説だった。

シリアルキラーの女の子とその幼馴染の物語なのだが、心の動きの描写が半端ない。ストーリー的に現実には無理そうなところもあるが、破綻無く描き切っている。一瞬読者の読み方によるマルチエンディングのように見えるが、著者自身が後書でそれを否定している。

そのあたりの考察も含め、今年出会ってよかった本ベスト1として記事も書いているので、興味が出た方はどうぞ。

 

nagainagaiinu.hatenablog.jp

 

短編七芒星(舞城王太郎

圧巻の短編集。

すっかり実力派の古参という地位を築いているが、それにあぐらをかかず、新しい描き方を追求していく短編たちは見事という他ない。ここにきてまだ進化するのか、舞城。

すべての小説が「え、舞城こんな書き方すんの?」という具合の初感なのだが、読み進めていくうちに「うん、これ舞城王太郎だわ。紛れもないわ。半端ないわ」という具合に、様々な描き方を試すのみでなく完璧に自分のものにしている。こんなことある?

ファンやめません、一生ついていきます。そんなふうに思える一冊だった。

 

ジョーカー・ゲーム柳広司

あほほど面白かった。

「スパイ養成機関」である「D機関」が創設されるところから物語は始まる。
読みはじめには「はいはい凄腕のスパイたちが活躍するゲームね、と思ったが、そうではなく、人の強さもまた弱さも限界も描かれていて、本当に面白かった。

すべてがうまくいくわけではないというところも、ぐぬぬぬぬと、その筆力にはうなってしまった。

続編二編と完結編についても、年が明けたら順々に読んでいこうと思う。

 

奇想と微笑〜太宰治傑作選〜(森見登美彦編)

 

太宰治が書いてきた、さまざまな「オモチロイ話」(森見登美彦談)である、短編小説随筆散文後書などの文章を集めた一冊。

端的に、文章力が果てしない。これは、いつも読んでいる最近の人の小説だととても敵わないレヴェルだと思う。

太宰といえば「人間失格」と思う人も多いと思うのだが、あの救いの無さの切り取りとしての小説ではなく、生きていることを肯定するようなもの、人々の心の強さを描いたものなども収載されており、「太宰治再発見」という感じだった。

というか早く読めばよかった太宰もっと。こんなん文芸好きそりゃみんな好きになるよ。おすすめ。

過去に記事も書いているので、興味がある人は読んでみてください。

nagainagaiinu.hatenablog.jp

 

正欲(朝井リョウ

すさまじかった。こんな発想はなかったけれど、本当にそういう人もいるのかもしれない。という異常な性癖の人たちが出てくるのだが、「多様性とは?」「インクルーシヴな社会とは?」と読者の常識に何度も何度も強く訴えかけてくる。

文章も物語も文句なし。さすがとしか言えない。

 

君の地球が平らになりますように(斜線堂有紀)

人が人に執着することについて描かれている短編集。好きな人が陰謀論にハマりその心に入り込んでいく主人公を描いた表題作も面白いが、イチオシは「転ばぬ先の獣道」。この短編集の考察は一回ちゃんと記事にしたいと思っている。来年序盤になんとかやろう。
斜線堂、ほん好き。

 

ハローサマー、グッドバイ(M.コーニィ)

たしか「バーナード嬢曰く。」でタイトルを見かけて読んでみた一作。SFを読むことってほとんどないので、世界観も含め大変新鮮で面白く読んだ。
思春期の少年が主人公なので色々なことがもどかしいのだが、最後の展開、伏線の回収は本当に胸が熱くなる。続編があるようなので、来年に読んでみようと思う。

ちなみに、「バーナード嬢曰く。」を読むといろいろな作品を知ることができる(なんなら知ったかぶりできるようになる)ので、気になった方はそちらもお読みくださいな。

 

深夜特急沢木耕太郎

今更読んだ。昔友だちにDVDを借りて大沢たかおの佇まいに感動したものだけれど、内容は重慶マンション以外忘れていたのですべて新鮮に読むことができた。

さまざまなものこと人に出会い、さまざまなことを考える。生き方に大きく影響をするかもしれない。旅ってきっとそういうものなのだろうなと思った。

ほぼ旅行しないのだけれど、バックパック背負ってユーラシア大陸横断したいと思ったけれど、まず無理だし思っただけなので、実行はしない。でも本当に旅に出たくなる作品。それだけで、十二分な価値があると思う。

 

第一芸人文芸部 創刊準備号(又吉直樹、ピストジャム、ファビアン)

bookandbeer.theshop.jp

芸人の又吉直樹、ピストジャム、ファビアンによる作品集。又吉は自由律俳句と散文、ピストジャムは書評、ファビアンはショートショート

芸人が書く物語についてはこれまで大きな偏見があった。というか、なんか芸人でやっていってるのになんでわざわざ本なんか書くんだろう雑音にしかならんよな妙に賞レースに絡んできたりするし、くらいのことを思っていた。又吉直樹については自由律俳句までやっていて、「まだ認められたいんか」と本当に敬遠していた。

が、そんな偏見、決めつけはこの作品集を読んでぶっとんだ。みんなすごすぎじゃろ。

とくにファビアンのショートショートがどれもよかった。その中でも、まあみんなそうなんだろうけれど、「ハンドメイド・ウェディング」が本当に気に入った。文章も当然のようにうまいのだが、最後が秀逸だ。胸が締め付けられる。

 

女王はかえらない(降田天)

入院中に看護師さんにおすすめしてもらった一作。やばかった。

途中から、あれなんか人物違くなってる?から始まって、あれやっぱ違う人の話してる?になって、そこまで予測できるわけあるかーい、となった。やられた。完璧にどんでん返された。

本格ミステリってほとんど読まないから、驚きの連続だったけれど、またいろいろと呼んでいきたいと思える一冊だった。ありがとう、◯◯さん。

その看護師さんには他にもおすすめしてもらい、積読に載せているので来年読んでいきたい。

 

以上終了だ

来年もたくさんのすばらしい本に出会い、さまざまな体験を味合わせてもらいたい。おすすめ小説があったらコメントかtiwitterで教えて欲しい。読むかは知らんが。