【読書感想】走馬灯のセトリは考えておいて / 柴田勝家

 

「オンライン福男」「クランツマンの秘仏」「絶滅の作法」「火星環境下における宗教制原虫の適応と分布」「姫日記」「走馬灯のセトリは考えておいて」の七作からなるSF短編集。といってもSF的知識(未来、科学、宇宙)はとくにいらないのですっと読める。

すべての作品がめちゃくちゃ面白かった。一作目の「オンライン福男」からしてめちゃくちゃ面白くて期待値があがりながら読んだけれど、それを超えてくる面白さだった。とくに「クランツマンの秘仏」「走馬灯のセトリは考えておいて」を面白く読んだ。

◼️クランツマンの秘仏

スウェーデンの東洋美術学者ヨアキム・クランツマンの研究にまつわるお話。「物質の実存には信仰が必要である」という思考実験から逆転し「信仰さえあれば、いかなる物質も存在できる」という論へと結びき、さまざまな実験を行って……

面白い仮説が書かれてあって、「信仰の有無こそが物質に固有の霊的質量を与える」「信仰がある限り秘仏は存在している」「対象における信仰の総量が質量を決定づける」オカルトとかではなく、普通にあり得そうでよかった。実際にそんな秘仏があるのだろうか。調べればいいのだけれど調べていない。確かに何百年も誰も見ていない仏がそこに存在するかは、そこに仏が存在していると考える限りにおいては存在するのだよなと思う。そうして、現実に質量を与えることもあるのかもしれない。

◼️走馬灯のセトリは考えておいて

主人公小清水イノルは人生造形師(ライフキャスター)で、生前のライフログ(コンソールを導入していればそのデータ、それ以前のデータは日記や動画データなど)を元に死後もコミュニケーションの取れるキャスト(ライフキャスト)を作成する仕事をしている。あるとき元バーチャルアイドルの黄昏キエラこと袖崎碧からの依頼を受ける……

ものすごいエモい小説だった。じんわりと大変よい。いつかこんな未来が訪れる日がくるんだろうか。手に入るライフログで生前と同じように考え、行動するAI(のようなもの)はもう出ているのかもしれないけれど(知らん)、あえて入力しなかった癖である仕草をキエラがしたとき、本当にグッときた。「魂が宿ったのだ」と。
しかしそうなると、死というものは一体何なんだろう。肉体の死というだけになるんだろうか。人は永遠に生きていけるのか。それは果たして幸せなんだろうか。とかいろいろ考えた。