【読書感想】出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと / 花田菜々子

夫と別居することになった著者が、出会い系サイトで申し込みがあった人と軽くお茶しながら話したりしてその人を深掘りし、本をおすすめしまくった記録。
出会い系サイトと言っても、出会いを異性との恋愛目的に限定していない、さまざまなバックグラウンドの人が気軽に30分だけ会って話をするというもので、セックス目的の人も中にはいるが、人脈を広げたい人、ただ時間を過ごしたい人などまちまちで、楽しそうなサイト。

著者は当時ヴィレッジヴァンガードの店長をしていた。夫と別居して、二人で過ごし時間がなくなり、休日も一人で過ごすようになる。そうして自分の人生の狭さに気づく。

狭い人生……。
もっと知らない世界を知りたい。
広い世界に出て、新しい自分になって、元気になりたい

そうしたときに、たまたま起業家の新書でその出会い系サイトのことが紹介されており、興味を持って、「本を紹介する」ことを始める。
出会った人に影響を受け、影響を与え、どんどん著者は元気になり、世界を広げていく。親友を作ったり、出会い系サイトの枠を超えて人と出会ったりしていく。そのことによって自信をつけ、ついには……!

ヴィレヴァンの店長だけあって本にはめちゃくちゃ詳しいしかなりの読書量の著者が、30分深掘りした初対面の相手に本を勧めるという企画がまず面白い。わたしも勧めてほしいもん。
そして行動力がある人なんだろうと思う。そもそも行動力無い人はヴィレヴァンに勤めようと思わないし。初めは気後れをしていた部分もあるだろうけれど、回をこなすうちに初対面の人と話すことになんの抵抗もなくなったというし、こういうのも訓練なのだろうなとも思う。
そしてその経験を活かして、憧れに近づくなんて希望みたいだ。わたしは、自分には永遠にそれをできるようになる気がしない。憧れの人は憧れのままで終わるだろう。そもそも誰にも憧れていないかもしれない。あれ、色の無い世界?

それはさておき。

本で読んでも楽しい魅力的な人がどんどん出てきて、世の中ってこんなに面白いっけ?と思ってしまった。70人あってしんどい出会いもあったと書いてあるが、総じてポジティヴだ。人間観が元々ポジティヴなのだろうか、知らない人と会っていくことによってその人を肯定する感覚が養われてきたのだろうか。いずれにせよ、素敵な素養だ。

この本を読んでも、真似をしようとは思わない。まずそこまでの書籍の知識がないし、出会い系はやっぱり怖い。それと、「本を勧める」ってすごく個人的で内面的な作業なので、まず「その人を引き出す」力が無いと的外れになる。けれどその「その人を引き出す」という作業がやはり技が要るし覚悟もいる。内面と向き合うなんていうのは自分自身とでさえしんどいのに、それを今日会っただけの他人についてやるというのは、大分タフなやりとりだ。し、相手にも負担を強いることになる。さらにそうして本を勧めることも、究極的には独りよがりだ。でもそれをできる、やりきれるのは、著者の話術と人柄の良さがきっとあったのだろう。わたしにはそんなもの無い。

この本を読んで勇気をもらって何かへの一歩を踏み出したい気もしているが、その何かが何なのかまだわからないので文字通り二の足を踏むしかない。でもこうなりたい自分があったり、会いたい誰かがいたりしたときに、それをつかみ取れるかどうかは自分自身の問題であったりする。こういう強い心を持った人には憧れを抱いてしまう。

著者が店主を務める書店、蟹ブックスは高円寺にある。遠くはないが近くもない。いつも行く美容室のお姉さんは蟹ブックスへ行き、選書してもらったそうだ。いいな。わたしもいつか選書してもらいに行きたい。