2024年も上半期が終わる。長いようで短い、早いようでゆっくり、いろいろと形容のしようはあるが、とにかく上半期が終わる。
そこで、今年の1月から6月までに読んだ小説(50冊)の中で、文句なしにおすすめしたい小説をまとめておきたい。尚、これはあくまでわたしが今年上半期に読んだと言うだけで、今年上半期に発売されたと言うことではないので注意されたい。また、「7」というのは、10冊だと5分の1だからありがたみないかなあ、けど5冊だともっとおすすめしたい小説もあるよなあという葛藤の末の数字である。あまりに名作のため「今更かよ」と思われる作品もあるかと思うけれど、その辺は読書初心者の言うこと、大目に見ていただけると助かります。
カラスの親指 by rule of CROW's thumb / 道尾秀介
<雑な紹介>
タケさんとテツさんの詐欺師コンビ。ひょんなことから少女一人と同居生活を送るようになると、さらにひょんなことからさらなる2人と合計5人で共同生活を送るようになる。あることがきっかけで、5人にとって恨みのある人物が同じであることを知り、5人による復讐劇が始まる……。その先に待つものは、その前にあったものは、次々にわかっていく事実に大きな驚きと感慨がある。
<一言感想>
ミステリ初心者でも問題なし。普通に心動かされる小説。一人一人の心情が掘り下げて描かれているわけではないが、それぞれが大きく深い傷を負っていて、それを起こっていく出来事を通じて克服していく。過去は消せないけれど、生きていこうと思える小説。
地雷グリコ / 青崎有吾
<雑な紹介>
「地雷グリコ」「坊主衰弱」「自由律ジャンケン」「だるまさんがかぞえた」「フォールーム・ポーカー」「エピローグ」からなる連作短編集。
あるとき文化祭の模擬店の場所取りの勝負をすることになるが、それが「地雷グリコ」というゲームだった。それは四十六段の階段で「グリコ」をする、というものなのだが、その階段内に各人が三つずつ地雷を仕掛けられるというルール。地雷を踏むと一番下から上り直しになる。など、誰もが知っているゲームに一つルールを加えるなどして勝負としての面白みをグッと引き上げて描いている小説。ヒリヒリする心理戦、頭脳戦でもあり、ドキドキさせられっぱなしの読書体験ができる。
<一言感想>
各所での評価も高いだけあって、大変面白い。誰でも知っているゲームのアレンジなので、読んでいて楽しいし、自分だったらどうするかなど考えてもいいかもしれない。アレンジによって勝負の緊張感が段違いに跳ね上がるので、本当に心臓に来る。勝負し続けていた動機づけはまあおまけって感じで見ればいいかなという感じ。
横浜駅SF / 柞刈湯葉
<雑な紹介>
横浜駅が自己増殖をして本州全土と四国を覆った。横浜駅の中エキナカは、駅員と自動改札による監視社会だ。エキソトの九十九段下という土地で育ったヒロトは、手に入れた18きっぷを利用して五日間エキナカに入ることになった。そこでさまざまな人たちに出会い、一つの決断を迫られることになって……
<一言感想>
こんな着想でこんな壮大な物語が書けるのかという驚きがまずある。あと横浜駅の改修につぐ改修を見ていた身として、いやほんとに自己増殖するかもなと一瞬思ってしまう。成り行きで決断を迫られ、実行したヒロトがこれからどういうつもりで生きていくんだろうかと思うと、苦しくなるところもあった。
令和元年の人生ゲーム / 麻布競馬場
<雑な紹介>
「第1話 平成28年」「第2話 平成31年」「第3話 令和4年」「第4話 令和5年」の四話からなる物語。各話で主人公が異なるが、基本的には意識が高かったり、キラキラな会社に勤めているという人物像。
各話で主人公が出来事を通じて自分や周りについて自覚的になり行動したり呆然としたり、しかし歩き出していく、という流れ。その時代時代の空気感が表れていて、「意識が高い」系の人たちや環境の解像度が高くて読んでいて「あー」となる。その時点で流行っていた考え方などがきちんと描かれている。
<一言感想>
面白い。全話に共通して出てくる「沼田」が影の主人公と言って差し支えない描かれ方をしているのだが、この人物に注目して読んでいくと、ものすごい寂しくなるのでオススメ。どうやって生きてきて、どうやって生きていくのか、この人物目線の話がないので、各主人公を通じて想像していくしかないのだが、その謎解きも楽しかった。寂しかったけど。
走馬灯のセトリは考えておいて / 柴田勝家
<雑な紹介>
「オンライン福男」「クランツマンの秘仏」「絶滅の作法」「火星環境下における宗教制原虫の適応と分布」「姫日記」「走馬灯のセトリは考えておいて」の七作からなるSF短編集。といってもSF的知識(未来、科学、宇宙)はとくにいらないのですっと読める。
表題作は、人生造形師(ライフキャスター)の主人公が、かつてのバーチャルアイドルからの依頼を受けるところから始まる。ライフキャストとは、ライフログを元に死後もその人とコミュニケーションを取れるもの。バーチャルアイドルからの依頼を受けた主人公はよりよいライフキャストを作り依頼人の願いを叶えるため、より深く依頼のことを理解しようとする。そして。
<一言感想>
エモい。この一言に尽きる。いつかこんな未来がきたら、「死」は周りの人にとっては「肉体の死」でしかなく、さらに「魂」すらもライフキャストに宿るのであれば、それはもう不死身。死生観も倫理観も何もかも変わっていくだろう。怖いもの見たさで見てみたいが、ここまでのものはわたしの生きている間には生まれないだろうな。
熱帯 / 森見登美彦
<雑な紹介>
あるとき小説家森見登美彦は、かつての同僚に誘われて「沈黙読書会」という読書会に参加する。「謎」の本を持ち寄りその謎について話し合う、しかし謎を解決してはならないという、謎の読書会だ。そこで白石さんが持っていた「熱帯」という本、それこそは森見登美彦がかつて途中まで読んだが失くしてしまい、どれだけ手を尽くしても存在すらも確認できなかった、幻の小説だったのだ……。
物語は視点人物を変えて壮大な風呂敷を広げていく。千夜一夜物語を下敷きにした、入れ子構造のストーリー展開は構造が分かるとものすごい仕掛けになっている。
<一言感想>
第一章から第五章まですべて面白いのだが、第四第五章の推進力がやばい。ここだけで一つの冒険小説としてかなり完成度の高い物語となっているのだが、それが第一から第三章、ひいては物語全体読者まで含めての構造があり、気づいたときには「まじか」と声を出してしまっていた。
本の背骨が最後に残る / 斜線堂有紀
<雑な紹介>
「本の背骨が最後に残る」「死して屍知る者無し」「ドッペルイェーガー」「痛妃婚姻譚」「『金魚姫の物語』」、「デウス・エクス・セラピー」「本は背骨が最初に形成(でき)る」からなる短編集。
紙の本が無くなり物語を語る人が「本」となる。一人の「本」は原則として一つの物語しか語ることができない。本には誤植が見つかることがある。ある本とある本の語る同じ物語の中に、食い違いが発生することだ。こうした場合「版重ね」が行われる。この版重ねというのは……という表題作に始まり、すべての作品がハッとさせられるような怖さと力強さを持っている。描写のリアリティがすさまじく、本当にそういう現実があるかのように思えるほど。
<一言感想>
発想がすごい。表題作の「人が本になり口伝で物語を伝えていく」というのはひょっとしたら思いつく話なのかもしれないが、誤植が見つかった場合の「版重ね」のシビアさ残酷さエンタテイメント性、人の業みたいなものもよく描けている。話としてものすごく面白い。人が普段目を背けようとしている自身の感情を揺さぶってくる。とにかく怖いが、誠実な物語たちだった。
以上
というわけで、7作見てきた。どれも大変面白い作品なので、もしまだ未読の作品があれば、これを機にぜひ読んでみてほしい。おすすめ!
わたくしからは、以上です。
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空the腹
— mah_ (@mah__ghost) 2024年6月27日
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パン食うのやめんとなと思いつつ。
— mah_ (@assa-ghost.bsky.social) 2024-06-27T01:36:52.953Z