遠心分離機

文体の練習

Finding Paradise(To the Moon 2)のなす問題提起

To the Moonについての考察の続編。つまりは、To the Moon 2、Finding Paradiseのちょっとした考察。

Finding Paradise

To the Moonという人気アドベンチャーゲームの続編。To the Moonの続編なのでTo the Moonを先にぜひプレイしてほしい。 

Finding Paradiseのストーリーを途中まで整理する

拙ブログより引用(To the Moonはハッピーエンディングなのか - 遠心分離機

エヴァ・ロザリーンとニール・ワッツ、二人の医師は、死期の迫った、昏睡状態にある人間の記憶に働きかけることで、その人が叶えたかった夢、あきらめてきたことなどに関する願いごとを意識の上で叶え、安らかに死を迎えられるようにすることが仕事。その方法は、特別なマシンを使い記憶の中に入り、少しずつ記憶を遡っていくことで本人の願いを把握し、記憶に働きかけるというもの。そうすることで、本人の中に、その願いごとが叶っていた別の人生の記憶を新たに構築させ、意識の上で願いを叶えていく。

<コリンの願いごと>

今作の依頼人コリンは、特定の願いごとがあるわけではない。様々なことを経験して、十分に生きてきたはずなのに、心に穴があいたままなのだと話す。

Finding Paradiseより

そんなコリンの願いは、「人生に満足して死にたい」ということだった。

ただし「現実の人生で体験したことは変えないで欲しい」「(家族から)人生に不満があったと思われたくない」と、条件を話す。

Finding Paradiseより

通常このサービスは、具体的な後悔や願い事を元に、これまでの人生を(意識の上で)変え、安らかに死ぬために利用される。それに対してコリンは、人生を(極力)変えないで欲しいと願う。とくに家族との思い出はそのままにしてほしいと。

そうして、エヴァとニールは、コリンの人生にどのような後悔があったのかということを、記憶に潜っていくことで探ることとなる。

<不思議な時系列>

本来クライアントの記憶へは、「老年期→中高年期→青年期→幼少期」のように過去に遡っていく時系列で潜っていく。ところが、コリンの記憶は、「老年期→幼少期→老年期→幼少期」のように、記憶への通常の一直線のアクセスができず、中心の記憶に向かってらせん状に進んでいく。

Finding Paradiseより

<フェイと共に過ごしていた幼少期から少年期>

初めての(人間の)友達、フェイ

コリンは内気で空想癖のある少年で、かつて怪我をしていて手当をしてやった小鳥以外、友だちがいない。公園で遊ぶ友だちもいなければ、学校でも陰口を叩かれたりと、あまりいい経験をしていない。そんなコリンが自宅のベランダで佇んでいると、向かいのマンションのベランダからフェイが話しかけてくる。

Finding Paradiseより

二人はベランダとベランダに立って、様々な話をして仲良くなっていく。

どこに行くのも、何をするのも一緒

そうして親密になったコリンとフェイはどこに行くのも何をするのも一緒だ。一緒に山を登ってコリンのお気に入りの場所でチェロの練習をしたり、コリンの学校を見学に来たり。コリンの管弦楽の練習にすら着いてくる。そして要所要所で、コリンの背中を後押しする言葉をかけてくれる存在となる(つっけんどんだけど)。

Finding Paradiseより
夢への一歩

コリンのパイロットになりたいという夢が具体化したのも、フェイがいたからだった。

Finding Paradiseより

「(パイロットに)なりかたが分からない」と弱気なコリンに、フェイは「飛行場で聞いてみればいいじゃん」と言い放つ。その翌日、二人は小さな飛行場に行き、コリンは働きながら訓練をさせてもらえることとなる。

働いているときも、訓練しているときも、フェイは常に傍らでコリンを見守ってきた。

Finding Paradiseより

<ソフィアと共に過ごしていた青年期(後期)から老齢期>

出会い

いつもと異なり、フェイがコリンについてきてくれなかった管弦楽団の練習で、ソフィアに出会う。

水族館デート

水族館デートでピアニストになったきっかけを語ったソフィアに、それは他人に人生をコントロールされていることにならないかとコリンは問いかける。それに対しソフィアは、「どんな道を歩むことになっても、そこで精一杯生きられればそれでいい」と答えた。人生は短く、やりたいことをすべてやるなんて無理で、何をやっても必ず他に興味がわいてくるし別の道を歩んでみたくなる。「だから結局…実際に歩むことになった道で、満足するほかないと思う」と。

Finding Paradiseより
プロポーズ

仕事の師匠に頼み、空にプロポーズの言葉を書いてもらいますが、誤字でかっこよくはきまらない。

Finding Paradiseより
アッシャーの誕生

ついにコリンにも子どもが生まれる。フライトの都合で出産には間に合えなかったが、急いでかけつける。子どもが生まれたことに戸惑いを隠せず「自分がまだ子どもみたいな気がするのに。あの頃から、ちっとも成長してない」と漏らすコリンに、ソフィアは言う。「初めて会った時と比べたって、全然違う」「あの頃みたいに上の空じゃない。身も心も、ちゃんとここにいる」と。

Finding Paradiseより
ソフィアの戸惑い

ソフィアはこれまで見てきたように、コリンを現実世界に結びつけた存在だ。一貫して「今を生きるしかない」「選んだ世界で生きていくしかない」と伝えてきた。コリンもそれはそう思っているからこそ、「現実で起こったことは変えないでほしい」と願ったのだと思われる。

なのにも関わらず、コリンは「人生をやりなおす」といったジークムント社のサービスを利用しようとしている。このことに、ソフィアは納得することができない。「お前だって後悔はあるだろう」というコリンの問いかけに「それでも、この人生で経験してきたことは、かけがえのないもの」「”あなたと”、経験してきたことは」と返す。

Finding Paradiseより

それでもソフィアはコリンの意思を受け入れる。それは、コリンに悩みがあるように見えるからだ。ソフィアは、コリンがベランダで遠くを眺めている姿を見かけることがあった。だからそれを受け入れる代わりに、「新しい人生をやりなおすときには」「何もかもを捨てることはしないで」とお願いする。

Finding Paradiseより

フェイの覚醒と核となる記憶

<行き止まりの記憶>

ここまでは記憶の遡上がらせん状であるというイレギュラーはあるとはいえ、記憶の場面場面でメモリーリンクを集めメメントを起動し次の記憶へ行く、というルールが通用していた。

ところが、ある記憶が、メモリーリンクをいくら探しても見つからない。その記憶は、コリンとフェイが、廃業になった飛行場の外で話をしている記憶でした。

その記憶の中で、コリンは、貨物機パイロットになり、旅客機パイロットになるための飛行時間を稼ぐことについてフェイに話す。「ベランダで立ち話してたのが、昨日のことみたい」と言うフェイに、コリンは「背中を押してくれたこと、感謝してる」とお礼を伝える。

Finding Paradiseより

また、新しく入った管弦楽団で女の子(ソフィア)と仲良くなり、デートに誘おうと思っていることを話す。そこでふいにフェイは「最近、あんまり話さなくなったよね、私たち」とこぼす。それに対してコリンは「忙しくて」と返す。それを受けてフェイは、「コリンはもう大丈夫だと思う」と伝える。

Finding Paradiseより

<フェイから何かを変えていくしかない>

エヴァとニールは、ここまで遡っても結局コリンのやりなおしたい後悔していることが思い当たらないん。そこで、ニールは、何かを変えなければならないが、ここまでの記憶に一貫して出ていて家族じゃ無い人物はフェイしかいないと話す。コリンは初恋の人が忘れられなくて、彼女と付き合っていたらって考えずにはいられないんだと。しかし一緒にはなれない。だから自らの問題の根源を自分たちに断っ手もらうしかない情けない男なのだと。

Finding Paradiseより

しかし、この記憶のメモリーリンクを探すが、どこにも見つからない。

<フェイに関する記録は一切無い>

困っていると、ニールの忘れた書類をロクサーヌが届けにきてくれる。そのためニールは一度記憶の中から現実へと戻り、書類の手続きをする。

すると、コリンの記憶の中にいるエヴァから「フェイが航空事故で亡くなっていないか調べてくれ」と連絡が入る。ニールは忘れ物を車に取りに行くところだったので、ロクサーヌにそれをまかせた。

そして、調べ終わったロクサーヌから、「フェイという人物が航空事故に巻き込まれた記録は無い。それどころか出生記録も死亡記録も無い」と、衝撃的なことを聞かされる。

Finding Paradiseより

つまり、フェイは実在しない人物、コリンの作り出した空想上の友達だったのだ。

<フェイの覚醒と沈静>

コリンの記憶に戻ったニールはエヴァがいないことに気付く。そして、記憶の中のフェイが意思を持ってニールたちに抵抗してくるようになる。

フェイは、ニールに対して、出ていくように訴える。協力してくれと言うニールに、関わるなと言い続ける。

Finding Paradiseより

フェイが干渉してきて作業が進まないため、エヴァが一度離脱して現実に戻り、コリンに鎮静剤を投与して精神作用を抑え、フェイを無力化して、らせん状の記憶の中心にある、核となる記憶に潜ることにする。

<核となる記憶(青年期)>

核となる記憶は、青年期、コリンがフェイと山に登って景色を眺めている場面だった。

懐かしの山頂

コリンとフェイは子どもの頃登った山にまた登り、チェロとギターの演奏をします。そして景色を眺めながら、話をしていきます。

みんなそうやって大人になっていくんだよ

一人ぼっちになりたくないとこぼすコリンに、フェイは問いかける。「コリンはたくさんの時間をわたしと過ごして、現実には怒らなかったことを、心の中に描いてきた」「でも、現実に起こったことは?これからなろうとしていることは?」

Finding Paradiseより
それはコリンひとりでもできるってことだよ

これまで一緒に過ごしてきた時間も、本当はコリンがひとりで過ごしてきた時間だ。だから自信を持つように、フェイは背中を押す。

Finding Paradiseより
願いが叶う場所を見つけに

フェイはコリンに、この世界を出ていくように話す。世の中はステキなものであふれている、この二人の世界を飛び出さない限りそれには気付けないんだよと。みんなそうやって大人になっていくんだよと。だからこそ大切な人と過ごす一瞬一瞬が輝いて見えるし、思い出は宝物になるんだよと。

Finding Paradiseより

そして、タイトル「FInding Paradise」の「Find」がここのセリフだと思われます。他に「見つける」という単語を使っていたセリフは無かったと思うので(日本語版では)。つまり、「Finding Paradise」の「Paradise」とは架空の何かではなく、現に生きていく世界そのものなのだ。

Finding Paradiseより
満足したら会いにいく

別れを告げるフェイだが、コリンが満足な人生を送ったら、そのときはまた会いにいくから、人生で起こったいいことをすべて話してほしいと言う。

 

Finding Paradiseより

このようにして、フェイはコリンの人生から姿を消す。

<「消えるのは俺たちの方だ」>

フェイがいたから

これらの記憶を見た後、ニールは別の空間で、コリンが人生の中で培ってきた、さまざまな大事な場面を再度見させられる。そうして気づいたのは、コリンにはこのサービスは必要がなかったということ。「だってフェイがいたから」とニールは話す。

Finding Paradiseより

「自分の生きる世界を、別のものに作りかえる。実現しなかった願いを自分の頭の中で、かなえる。フェイはまさに、俺たちがやっていることそのものだ」とニールは続ける。

フェイがコリンの元を去った理由

「だけど、フェイはコリンの元を去った。それが何を意味するかは、明らかだ」と、ニールはエヴァに話す。

Finding Paradiseより

なぜフェイがコリンの元を去ったのか。それはコリンが現実世界で現実の思い出を作って現実に存在する大切な人たちと生きていくことに決めたから。フェイとコリンが最後に話したとき、フェイはコリンに、外の世界(現実世界)に出ていくように背中を押した。フェイはコリンの想像上の(しかしかけがえのない)友達だ。つまり、フェイの言葉とは、コリンの気持ちの表れ、コリンが言ってほしいと願った言葉ということになる。フェイがコリンに別れを告げるということは、コリンがフェイから離れる決意をしたということなのだ。

じゃあなぜコリンは人生に満足していなかったのか。それは、このサービスが存在するからである。過去の後悔をやり直せる、そんなサービスの存在そのものが、「現実を受け入れることに苦しさを覚えてしまうような人にとっては」「せっかく想いを断ち切った空想の世界への憧れがよみがえってしまう」「実際には怒らなかった大量の「もしも」を持ち込まれた異性で、現実が色あせて見えてしまう」ものだったからだ。

Finding Paradiseより

つまり、コリンはこのサービスを知るまでは現実で生きてこれたのに、このサービスを知ってしまったから、フェイのいた世界への憧れを蘇らせてしまったのだ。

だから、「消えるのは”俺たち”の方だ」とニールは話します。このサービスの記憶をコリンから消すことこそが、今すべきことだと。

Finding Paradiseより

コリンの後悔と最後の記憶

では、ジークムント社のサービスを知ったコリンが胸に抱いてしまった後悔とはなんだったのだろう。

<コリンの後悔>

フェイに後押しされたコリンは、その人生において、ソフィアや息子であるアッシャーと過ごすことで、たくさんの思い出を築いてきた。それらはかけがえのないものであり、だからこそ無かったことにしたくない思い出である。しかしそれでも、心にぽっかり穴が空いたと感じていた。

コリンの後悔があるとすれば、記憶を見てきた流れからも分かる通り、「フェイ」のことだ。ソフィアの持つ生きる力をもらい、現実世界を生きてきたコリンですが、「フェイがいたら」という気持ちが、ジークムント社のサービスを知ることでよみがえってしまったと考えられる。そのせいで人生に満足できていないという気持ちになり、結果的に人生の最後になろうとしているのにフェイが会いにきてくれません。

満足していないからフェイが会いにこないのか、フェイに会えないから人生に満足できないのか。それは鶏と卵の問題のように、答えはおそらくない。いずれにせよコリンは、心に穴が空いたように感じている。

Finding Paradiseより

<最後の記憶>

「消えるのは”俺たち”の方だ」とニールは話し、エヴァの反対を押し切って、「ジークムント社の記憶」を消し、コリンの臨終の記憶を満足行くようにするミッションを、フェイに託す。

ジークムント社の記憶を消すことで、コリンはソフィアがそう教えてくれたように、人生に満足したと思えたようになる。そのように満足したので、約束通りフェイが現れてくれる。

「後悔してること、まだ、ある?」と訊くフェイにコリンは答える。「チャンスを逃したこと、酷い目に逢ったこと、かなわなかった願い。みんな、僕の人生の一部だ。それがあったから、今の僕がある。そういうものを全部経て、僕が今、手にしているもの。それは、本当にかけがえのないものなんだ」と。そうしてコリンは永遠の眠りにつく。

Finding Paradiseが掲げた問題提起

<問題提起>

これは個人的な考えの問題なんだけれど、前作「To the Moon」のラストが、意識の中で人生をやりなおさせて大団円、となっていたことにわたしは違和感を覚えていた。「現実に起こったこと」の尊さを無視してはいないかと。

本作は、その問題をまさに提起しているように思う。「現実を受け入れることに苦しさを覚えてしまうような人にとっては」「せっかく想いを断ち切った空想の世界への憧れがよみがえってしまう」「実際には怒らなかった大量の「もしも」を持ち込まれた異性で、現実が色あせて見えてしまう」というニールのセリフがまさにそれを表しているなあと思った。

<続編へ>

本作は<To the Moon3>とされる「Impostor Factory 三度目の月旅行と殺人事件」という続編がある。さ、殺人事件??

普通に考えたら続編はこの問題提起へのアンサーを含むはずです。Switchへの移植待ちだが、楽しみで仕方ない。

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また、本筋とは離れるので全く触れませんでしたが、3ではおそらくニールがいろいろ暗躍しているようなので、そちらのストーリーも楽しみだ。

↓ニールに詰め寄るウィンターズ

Finding Paradiseより

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↓合わせて読んでください

nagainagaiinu.hatenablog.jp