【読書感想】ミステリー小説集 脱出 / 阿津川辰海・空木春宵・斜線堂有紀・井上真偽・織守きょうや

5人の著者が「脱出」をテーマに書いたミステリー小説集。

作品は、次の5作。
阿津川辰海「屋上からの脱出」、織守きょうや「名とりの森」、斜線堂有紀「鳥の密室」、空木春宵「罪喰の巫女」、井上真偽「サマリア人の血潮」

読んでいて、わたしの中で「ミステリー」の定義がよく分かっていないなと思った、そもそもの話。密室とか殺人とか探偵とかが出てくる推理小説ってイメージだけれど、よく考えたらmysteryの意味が、神秘的なこととか謎とか怪奇っていう意味があるので、なるほどミステリー小説集だった。

どの作品もとても面白かった。

阿津川辰海「屋上からの脱出」は、友人の結婚式から始まる。その馴れ初めとなったのは、10年前に、天文部の合宿で屋上に閉じ込められてしまったことだ。なぜ閉じ込められてしまったのが、どのようにしてその密室から脱出したのか、などなど。

織守きょうや「名とりの森」は、近所にある立ち入り禁止の森「名とりの森」を探検するべく小学生のノキが森に入るが……

斜線堂有紀「鳥の密室」は、相変わらず恐ろしい設定。神父とそれにつかえる異端審問間のベネデッタは魔女裁判で多くの魔女の正体を暴き燃やしてきた。魔女と疑われるものへは拷問が行われ、最後は生きたまま釜で焼かれる。あるとき魔女と疑われたマリアが裁判にかけられ……

空木春宵「罪喰の巫女」は、某県にある籠守神社なる聖域と罪喰様と呼ばれる巫女を求めて主人公は山の中に入る。神殿には先客が4人いて……

井上審議「サマリア人の血潮」は、記憶を失ったトオルがガランとした病室で目覚めるところから始まる。自己血が輸血されている点滴スタンドの他には何もなく、外へ出ると血の入ったチューブを啜っている女に出くわし……

 

<ネタバレあり>

どれもとても面白かった。

阿津川辰海の「屋上からの脱出」は、合宿中に屋上に閉じ込められてしまった天文部が、どうやって屋上から脱出したのか、そもそもどうして屋上に閉じ込められることになったのか、なぜ出られなくなったのか。などなどがハルの口から語られるが、当時の時点でトリックとその失敗に気づいていたハルにはなんとなくやるせなさを感じた。否定したけれど茜先輩のことが好きだったんだろうか。それは分からない。けど、普通なら「犯人」を咎めてしまいそうなところ、飲み込んでいたんだからハルはすごい。
こういう誰も死なないミステリは結構好きだな。

織守きょうや「名とりの森」は、めちゃくちゃよかった。ちょっと舞城王太郎味のある不思議なできごとを題材にした小説で、大好物な感じだった。ノキが一年以上森の中で生き延びていたのも嬉しかったし、森に棲む者は本当に恐ろしかった。自分も森に入っているような気持ちにさせられて、大変楽しく読んだ。

斜線堂有紀「鳥の密室」は、残酷描写があり、読み進めるのが苦しいが、最後に爽快感があ……ると言っていいのだろうか。読後感がよ……いと言っていいのだろうかという感じで、最終的に捉えられた二人が密室から脱出でき、前向きな感じで終わるのだが。その前にボロ切れのようになった身体を抱えてこの先どうやって生きていくのだろうと思うと、多分長くは生きないんだろうなと思って切なくなった。が、そうだとしても抜け出すことができたころは本当によかった。

空木春宵「罪喰の巫女」は、文章が硬い。明治時代の文章みたいな感じで、最初チューニングが大変だった。内容としては、罪喰の巫女に会いたい主人公が罪もない人をぶっころして罪を作り、罪喰の巫女に会いにいき、脱出を提案する。
主人公は戦争で家族を失い、瓦礫に押しつぶされ共に閉じ込められて妹を食って生還している。戦争のことが結構絡んでくるので、あんまり不用意に何かを言うのも憚られるのだが、そんな主人公、ラスト、一読して意味がわからなくて二度読んだ。

井上真偽「サマリア人の血潮」は、主人公が逃げながら記憶を取り戻していくのがスリリングだった。カズトに感情移入してしまうのはわたしがサイコだからかもしれないが、カズトの自分勝手な話にギュッと苦しくなってしまった。自分と自分の大事なもの以外はどうでもいいくせに、自分の大事なものが損なわれたときにめっぽう弱い。そういうところだぞ、と言うのよわたしはカズトに、そして自分に。

 

どの作者もとても面白い小説を書く人だなあと感慨深い。また他の作品も読んでみたくなった。こういう作品集のいいところよね。目当ての作家以外の作家さんに出会えるって言う。

大変によかったです。

 

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人を呪わば穴二つ

mah_ (@nagainagaiinu.bsky.social) 2024-10-06T21:19:33.652Z

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