はじめに
今年は100冊読もう。1月に漠然とそう決めたのだけれど、別段大きな理由があったわけではない。ただ無職をもてあまし、暇で暇で暇で暇で仕方ないのでそのくらい本を読んでみてもいいだろうと思ったのだ。
そしてtuini、100冊読み切った(歌集を入れると124冊)と思ったら99冊だった……。まあよい。それでも結構読んだなあという感想だけれど実は読書していた時期は偏っていて、4月、7月、8月は1冊も読んでいない。活字に飽きるというのではないけれど、永遠に延々とYouTube見続けてた時期があったり、あとは7月8月はシンプルに歌集ばかり読んでいたという記憶が今蘇った。
さてそういうわけで今回は、今年、2024年の読書を振り返ってみたいと思う。
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- はじめに
- 1冊目に読んだ本:R帝国 / 中村文則
- 99冊目に読んだ本:使いみちのない風景 / 村上春樹文・稲越功一写真
- ミステリ小説を結構読むようになった
- 冬季限定ボンボンショコラ事件 / 米澤穂信
- 結構SFを読むようになった
- そのほかも、いろいろな作家の本を節操なく読んだ
- 2025年に向けて
- おしまいに
1冊目に読んだ本:R帝国 / 中村文則
正月から何読んでんだという感じなのだけれど、ディストピアものである「R帝国」を面白く読んでいた。
この小説は、ある種ハリウッド的あるいはゲーム的な展開を軸にしつつ、ディストピアの様子を執拗に描いている。ディストピアには「一人一人が自分で何かを判断しなくてもいい」という逆説的な人間にとっての甘さや合理性もあり、決して人ごとではないと言える。「半径5メートルの幸福」というワードが主題となるが、しかし実際それは批判されるべきことなのかと少し思う。想像力があれば、半径5メートルの人の半径5メートルの人の幸福を考えられるはずで、そうすれば決して自分本位でない幸福の追求ができるはずだ。それとも細胞のように、全体のためにプログラム死すればよいのだろうか?
そんなことを正月から考えていた。
99冊目に読んだ本:使いみちのない風景 / 村上春樹文・稲越功一写真
99冊目(読み始めた時は100冊目だと信じていた)に読んだのは村上春樹と稲越功一によるフォトエッセイ。
村上春樹が心の中に貯めて持っている「使いみちのない風景」。何か物語になるかと言えばそうではない、本当にただ心の中にあるだけの風景。
村上春樹のわずかな怒りを含んだしかし穏やかな語り。自分の中にも「使いみちのない風景」はあるだろうかなんて考えながら読んだ。けどあまり思い浮かばない。きっと創作には向いていないだろうと思った。
村上春樹のように、「旅」ではなく「住み移り」のような生活をしてみたかったといえばしてみたかった。わたしは結構引越ししたい派なのだが、現実のさまざまな手間や問題を考えると無理だ。マンション買ってしまったしな……。だから村上春樹のエッセイを読むと、その生活を追体験できるので好きなのだ。スノッブでしかないけど。
というのが99冊目。まあ、最後を締めくくるには、なかなかによい選択だったのではないか。村上主義者(仮)としては。
ミステリ小説を結構読むようになった
今年に入るまでミステリって伊坂幸太郎しか読んでこなかった(ミステリというジャンルを認識しておらず、伊坂幸太郎をミステリと思って読んでこなかった)。
今年は斜線堂有紀を読みまくったのをきかっけに、ミステリ小説を結構読んだ。(カレイド・ミステリーも死体埋め部も最高だったよん)。
冬季限定ボンボンショコラ事件 / 米澤穂信
まず、米澤穂信に出会った。
とくに小市民シリーズ、「春季限定いちごタルト事件」「巴里マカロンの謎」「夏季限定トロピカルパフェ事件」「秋季限定栗きんとん事件上・下」「冬季限定ボンボンショコラ事件」の5作。超面白く読んだ。ほぼ一気読みだった。
最初はささいな事件から大きな事件へと発展していく。そうしてシリーズを読み進めていくと「冬季限定ボンボンショコラ事件」は、まさかの設定からのスタート。物語が少しずつ明らかになっていく様は、ほんわかしたキャラクターたちのほんわかした空気感に少しピリっとした感覚を与え、しかし損なわず、だけれどもやはり緊張感があり、みたいな謎の調和が成立していた。シリーズを「いちごタルト事件」から読み進めていくことで、「ボンボンショコラ事件」で明らかになる二人のあらましを知った後に二人を抱きしめたくなるほどの愛おしさが湧く。
が、できれば春季限定から全作読むのがオススメ。
また、「氷菓」「黒牢城」はまだ読んでいないのだが(読んでないのかよ)、「満願」など骨太のミステリ作品も面白く読んだ。今年は米澤穂信に出会えて嬉しい。結構作品を多く出してる小説家なのでこれからのわたしの読書では頻回に登場することになるだろう。
スフィアの死天使 天久鷹央の事件カルテ 完全版 / 知念実希人
知念実希人はなんとなく食わず嫌いしていたのだが、主治医の先生の同級生ということもあり、読んでみた。最初に読んだのは「放課後ミステリクラブ1」で、わかりやすい言葉でささいなしかし不思議で謎な事件で、うまくミステリを成立させていてすごいなと思った。
次に読んだ「屋上のテロリスト」はオチが予想できたが、設定やキャラの動かし方が面白いなと思って読んだ。
そして天久鷹央シリーズ。これがめちゃくちゃ面白い。
アスペルガー症候群を特別な存在や天才みたいに書いてるのが若干気になる(鷹央が天才かつアスペルガー症候群なのであって、アスペルガー症候群=天才ではないし、割と一般的にいる)のだが、それはさておき、設定、話の始まり、謎、引き、話の展開、ドキドキ感、さまざまな要素がそれぞれにレヴェルが高いと感じた。好き。鷹央ちゃんの傷つきとか寂しさとか、伝わってきてときどき心が痛いけれど、だから愛おしい。
というか、これ読んだら鷹央をみんな大好きになると思う。そういう魅力的なキャラが作れてることがすごいし、現役の医師が書いているのでいちいちリアルなのも本当によい。
このシリーズは続きも読んでいきたい。
ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に / 斜線堂有紀
今年は本当に斜線堂有紀を読みまくった。ミステリ、ホラー、SF、さまざまな小説を書き分ける斜線堂だが、今年発売されたこちらの短編集はとてもよかった。
「伝える」ことをテーマにした各話の話の設定というか場面設定がすごく良くて、どういう話になっていくのだろうと興味深く読めた。amazonレビューはあまりよくないのが謎なんだけれど、わたしにとっては「斜線堂やっぱ面白いな」と思わされた作品。
斜線堂有紀は筆が早く、とにかく作品が出まくる。わたしは今年単著を全部読み切ろうと思ったのだが、新版の「不純文学」と「プロジェクト・モリアーティ2」と「コール・バイ・ノーネーム」が読めていない。ぐぐぐ。
斜線堂有紀は設定を多分まず決めていて、そこから話をどんどん書いていっているのかなと思う。速さを考えるとプロットとかがっちり固めて書いてるかは分からない。とにかく設定がまずあって、その設定を生かして話をどう展開するかを考えていっていると思う。ワンアイディアを膨らますやり方は多くの人が取っているやり方だとも思うが、斜線堂有紀は結構そこに頼りすぎている気もしなくもない。わたしはすごく面白くてすごく大好きなんだけど、夫が「もう手癖で書いていて、話に重さがない。一つ「代表作」と言える作品を、腰を据えて書くべき時なのではないか」「アンソロジー出しても意味がない」などと言っていた。「手癖」というのはちょっとわからなくはない。また、確かに、「斜線堂有紀の代表作って何?」と聞かれた時なんと答えるか悩ましくはあるな。一番売れてるのは「恋に至る病」なのかなとも思うけど、それが本質ではないと思うし。作風を出版元や小説の種類(ミステリとかホラーとか恋愛とか)によって変えていてしかも多作なので答えに窮する。確かにここらで腰を据えて一年くらいかけて「これが斜線堂有紀だ文句あるか」みたいな作品を書いてもらって、何度も読み返したい。賞ばかりがすべてじゃないけど、なんか賞ほしいねーそろそろ。
今年は「本の背骨が最後に残る」も意欲作で大変すさまじくめちゃくちゃ面白かったです。
結構SFを読むようになった
SF小説って物理学の知識が必要で世界観にいちいち入り込めないから苦手……と思っていたのだが、今年は結構SFを読むようになった。スペキュレイティヴ・フィクションの意として「SF」という言葉を捉えたい。
横浜駅SF / 柞刈湯葉
永遠に完成しない横浜駅が自己増殖をして本州全土を覆った世界の話。横浜駅の外から「18きっぷ」を用いてエキナカへ入っていく主人公。出てくるキャラがみんな個性的で魅力的だった。「自己増殖をして本州全土を覆う横浜駅」という設定がぶっとんでいるのだが、なんかありそう(いやなさそう)でとてもよい発想。物語の展開もよく、さまざまな謎が解けていく中で、主人公の心情があまり詳しく描かれていない。そこがとてもよかった。主人公がなんかニュートラルなのだ。だからハラハラもするし、だから見守りたくもなる。最後主人公に課せられた役目が重すぎて、この物語の終わったあとの物語がとても気になる。
本作には「全国版」もあり、前日譚というかスピンオフというかになっている。合わせて読むと、登場人物にめちゃくちゃ愛着が湧いてくる。
柞刈湯葉は今年初めて読んだが、「人間の話」というSF短編集もとてもよかった。とても。来年もモリモリ読んでいきたい。それほど作品数がないのでさらっと追いつけそう。まず「まず牛を球とします。」を既読とします。
パラークシの記憶 / M.コーニィ
名作「ハローサマー、グッドバイ」の続編。「ハローサマー、グッドバイ」のストーリーを神話として受け継ぐ別の星のお話。SF恋愛青春小説とでも言おうか、めちゃくちゃめちゃくちゃめっちゃくちゃ面白かった。
SFでありミステリでもある。話がどう展開していくのかわくわくしたし、すごく緊張もした。一方で、恋愛小説としての側面は、二人の男女が出会って恋愛していく中であるべき葛藤があまりないので、なんだか惚気を聞かされているような気分になって不思議だった笑。
「ハローサマー、グッドバイ」を読んでいなくても単体で面白いが、読んでいると関連性とか、前作のラストに残された謎とかの意味がわかって大変面白い。
こうしたいわゆる「不朽の名作」のようなSFを来年はもっと読んでいきたい。「電気羊」とかもいい加減読みたいし(まだ読んでないのか感)。
走馬灯のセトリは考えておいて / 柴田勝家
SF短編集。未来、物理、科学の知識は別にいらない。
こんなことが本当にあるのかもしれない、あったのかもしれない、これから起こるのかもしれないと思わせるようなリアルさでさまざまな題材を取り扱っている。
柴田勝家はとにかく話が面白い。読ませる力がめちゃくちゃある。そして、実はエモい小説が多い。表題作も、「こんな未来がくるのかな」とも思いつつ読んでいって、話の展開、結末にむかって収束していく様は読んでいてとても心地よく、そしてエモい。エモいって言葉嫌いな人多いけどわたしは使う、エモい。
柴田勝家は他にも「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」というやはりSF短編集があるがそちらもとても面白い。こちらは物理学や宗教学の知識があるとより楽しいかもしれない。
SFって多分やっぱりワンアイデアを膨らまして書くのかなあと思うのだが(世界観を工夫する、キャラの特性を工夫する、みたいなところからかなと)、そのアイデアがものすごい面白くて、しかもそこから展開する話が、まあ読ませる。すごい作家だと思ったけど、なんで「柴田勝家」なんてペンネームなんだろ。
とはいえ結構クセつよなので人を選ぶというか、柴田勝家がメジャーになる未来はいまいち見えないのだが、わたしは大好きなので今後も推しの一人として推し推しでいきたい。
そのほかも、いろいろな作家の本を節操なく読んだ
結構いろいろな作家の小説を読んだ。ブックチューバーやほんタメがオススメしているものや、好きな作家が帯を書いている(amazonでわかる範囲で)ものなど。
令和元年の人生ゲーム / 麻布競馬場
直木賞候補作。全四話からなるこの小説は、各話の主人公がいわゆる意識が高い系だったりキラキラ丸の内OLだったりする。
な、なんなんだこの解像度の高さは!という感じで、いや知らんけど、ありありと情景が浮かび、心情をトレスできるという点で、おそらく解像度が高いのだろうと推察できる。各話の主人公の影に(別に隠れてはいないが)隠れ主人公がおり、その視点で物事を眺めてみるとものすごい寂しくなって大変に苦しくなる部分もあるのだが、とっても楽しめた作品だった。各主人公視点からの想像でこの隠れ主人公の心情を追っていくのが楽しい。
麻布競馬場は他の作品を読んでいないが、こういった世相を反映して綺麗に切り取って再構築したような小説がきっと得意なんだろう。注目の作家な気がする。わたしはね。
永遠についての証明 / 岩井圭也
数学の天才、「数覚」を備えた三ツ矢暸司の死をめぐる物語。小さめの13章からなり、各章で視点と時系列が変わる。
暸司には答えが「見える」。高校時代、大学時代と、だからこそ周りとの葛藤があり、周りとの共闘があり、周りからの隔絶、別離がある。この小説は寂しすぎてめちゃくちゃ泣いた。野生時代フロンティア文学賞受賞作なのだが、冲方丁、辻村深月、森見登美彦が絶賛したらしい。
この小説は結構いろいろな人に読んでみてほしい。こういう寂しさが世の中にあることを知ってほしい。底なしに寂しい小説。
ただこの小説の良いところの一つとして、事実が非常にドライに描かれている。暸司の孤独も苦しみも丁寧に描かれているが、読者がそこに強く共感して深く落ち込むということは無いだろう。また、周りの人の心情についても同じことが言え、とにかく登場人物に共感して読みたいという人で天才じゃない人は、あまり合っていないかもしれない。御涙頂戴ではないのだ。なのにわたしは号泣した笑。
岩井圭也は今年直木賞候補にもなっていて、大注目の作家な気がする。ちょっと他の作品も読んでみたいが、この小説が個人的にツボに入りすぎていて、あまり読まない方がいい気もしている。
トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー / ガブリエル・セヴィン
子供の頃、病院のゲームコーナーで出会った二人の男の子と女の子が、大学生の頃に再会して一緒にゲームを作るようになっていく。
こういう小説を読みたかったんだよというのがまず最初の感想。変に明るくなく、御涙頂戴でもない、だけれど人生のすべてがここに描かれているというか。こういうふうに人は出会うし、行き違うし、和解する。協働するし、反発し合うし、しかし求め合う。と、前に感想を書いていた。
こういうなんか愛なんだよなー、愛って難しすぎるよーってもどかしい。だいたい全部が行き違いで苦しい。
海外の小説って、とくに現代の小説家のものはまったく読んでこなかったのだけれど、たまには読んでみるものだなあと思った。とくに韓国文学は日本でも一定の地位を築いているし、少し読んでみてもいいかもしれない、と思った読書。
フラッガーの方程式 / 浅倉秋成
浅倉秋成は「六人の嘘つきな大学生」と「俺ではない炎上」の2作を読んでいたので、しっかりとしたミステリを描く人だという印象だった。ら、超かわいい青春ラブコメを過去に書いていた。それがこの「フラッガーの方程式」だ。
これは、平凡な高校生である主人公に、ある日白羽の矢が立ち、「誰でもドラマチックな人生を送れる」という「フラッガーシステム」のデバックを請け負うことになる。このシステムを使って生活をするということなのだが、要するにこのシステムを利用し、フラグを立てたり折ったりして人生をドラマチックにしていくということ。
めーーーっちゃかわいい青春ラブコメ。全部の話がかわいくて、全部の話が楽しくて、全部が伏線。最後の怒涛の大御都合主義的伏線回収は読んでいて爽快でしかない。ものすごく楽しくてむふふな読書体験ができた。
こういうふうに、今の作風と全然違う作品とかが出てくると、なんか「見つけた」感じがあって楽しい読書になる。この作品は結構オススメしまくっているが、最近本オススメおばさんになってきているかもしれない。
2025年に向けて
とりあえず今年と同様に99冊は読んでいこうと思う(漫画、歌集を除く)。
古典SFを読んでいきたい
2025年は、意識してSFの古典を読んでみたいと思う。電気羊とか、銀河ヒッチハイク・ガイドとかも読みたいし、まあ他にもいろいろ調べて読んでいきたい。
というのは、SF小説を書いてみたいからなんだけど、安直すぎるかしら。
好きな作家の作品を読み進めたい
たとえば斜線堂はなんかもう読んだと思ったら出るから諦めつつあるんだけど、知念実希人の天久鷹央シリーズは全部読みたいし、柞刈湯葉も柴田勝家も全部読みたい。この記事では触れなかったが、青崎有吾の裏染天馬シリーズも全部読んでいきたい。
時間がいくら合っても足りない
無職なのに!
おしまいに
数がすべてではない。99冊読まなくてもいい読書はできるし、99冊読んでも無意味な読書もあるだろう。
ただわたしは読みたいものがめちゃくちゃたくさんある。そして、無職なので何か達成感が欲しいのだ。ということで99冊を目指して読んでいく。
読書感想はこれまでと変えて、毎週「今週の読書」という形か、毎月「今月の読書」という形で書いていこうと思う。というのは、別に読まれないからまとめちゃっていいやという判断笑。
ということで、来年もよろしく(今年まだ更新すると思いますが)。