【読書感想】裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル/ 宮澤伊織

異世界とそこで出会う怪異にまつわる連作短編集。

ひょんなことから異世界(裏側、裏世界)に入り込むことができるようになった主人公空魚のピンチから話は始まる。空魚は同じく裏側に入ることができる鳥子によって助けられ、なんとか生き延びることができる。鳥子は人を探しているところだった。
空魚が大学で昼食をとっていると鳥子が現れ、また裏側に行こうと誘ってくる。前回のピンチの際に手に入れた物が現実世界で高く売れたので、また取りに行こうというのである。
こうして空魚と鳥子は裏側へ行くようになるが、鳥子の本来の目的は行方不明になった友人を探すことだった。そうして裏側へ行くうちに、さまざまな困難に遭って……

 

以前に読んで面白かった記憶があり、今kindle unlimitedで8作目まで読めるということで1作目から読み返すことにした作品。9作目が新刊で発売されたためだろう。

設定が面白い。異界に迷い込んだ人が変なことばかり起こる異界で命からがらどうにかこうにかなる、というのはよくある話なのだろう。本作では空魚が元々そうした怪奇現象に興味があり、ネットロアを読み漁っていたため、異界で起こる出来事も「あの話か」「この話か」と記憶と擦り合わせていく。

実際にあり、多くの人に認知されている出来事(怪談だけど)を物語に利用するのは難しい。そのまま書くだけだと物語というよりは記録になってしまうし、あまりにも捻じ曲げてしまうとそれはそれで臨場感がなくなる。

しかし本作は、そうしたネットロアをすでに知っている人こそが面白く読めるのではないかと思う。なぜなら、そうした出来事に対して新たな解釈を与えたからだ。

 

ちなみに、もちろん全然知らなくても全然楽しく読める。基本的には謎を突き止めて敵と戦うバディ物であるし、二人の関係性や感情の変化なんかはもう若い頃を思い出すようで恥ずかしさが溢れるし、ネットロアを知らなくてもその怪異のいる世界に没入できるようにきちんと書かれている。事実わたしはこうした怪談を知らなかったが、青春バディ物として楽しんだし、こうした現象についての解釈的な要素も面白く読んだ。なので予備知識ゼロOK。