文芸大好きな芸人さんたちの作品集。ラインナップは次の通り。
前回は又吉直樹、ピストジャム、ファビアンの3人だったので、倍以上の人数になった。BSよしもとの動画を少し見たけれど、みんな文芸好きだった(当たり前だ)。
一言ずつ感想でも書こう。
月の裏側 又吉直樹
小説。「地球はもう住めません」と言われ移住計画が進められ主人公も「月の裏側」へ移住させられる。そこは「月」の「裏側」ではなく「月の裏側」という別のもっとずっと遠い星。そこでは五年に一度地球を見ることができる。そんな一日に元恋人との思い出を思い起こし、開けられずにいた手紙を開く。
実は又吉の小説は前回の創刊準備号でしか読んだことがないのだが、普通に当たり前に文章も話もうまくて感心する。さすが芥川賞。よくありそうな設定でよくありそうな話なのだけれど、切実で、絶望的で、でもどこか優しくてよかった。逆かな。優しいのに決定的に絶望的でよかったのかもしれない。
書評 ピストジャム
ピストジャムの書評は読むとその本を読みたくなるので大正解なのだろう。
どれも読みたくなったがとくに「All You Nees is Kill」と「列」と「私はスカーレット」を今年のうちのどこかで読もうと思う。「列」は今日図書館へ行ったらちょうど収載されている群像があったので借りようかと思ったのだけれど、図書館の本を読めないという微妙な潔癖のため見送った。すごく迷ったのだけれど。じゃあなんで図書館行ったのかって話はまた別の話ですね。
あらすじを説明するだけじゃなくて、なぜそれが面白いのか置き換えて説明できているところなのかなあ、あと興奮がきちんと伝わるのにちゃんと冷静。バランスが絶妙なのかもしれない。また次号も読みたい。
ハチマキ 山名文和
二つの短い小説と詩。表題作の「ハチマキ」と次の短編「アウター」はド純文学。「ハチマキ」は祭りの打ち合わせでツッコミどころしかない登場人物とやりとりを我慢してたら……って話で、「アウター」は仲の良かったはずの友だちが急におかしなことを言い出して……って話で、ちょっと「笑い」の要素が入っているのだけれど、やっていることはもう純文学そのもの。エンタメ要素は無いから読む人は選ぶ。詩の方もド純文学。風の話なんだが、アイディアが怖い。血の一滴まで純文学なんじゃないかこの人は。
俳句と散文 村上健志
村上の俳句は有名で、教科書に載っているらしい。それはすごい。最近は芸能人で詩歌を嗜む人が増えてるんだろうか。だとしたら裾野が広がってとてもよいことだ。芸能人ってなんか感受性強そうだし。わたしは短歌を少しだけやるが、俳句は難しくてできないよなと思う。
今回は俳句とそれにまつわる散文。散文はなんか柔らかかった。もっと尖ってもいいんじゃないかっていうくらい。芸人の人の散文に何を求めていいのだろうとか考えた。又吉はもう第一アイデンティティは芸人かもしれないけど世間から見れば超有名作家の一人なわけで、超有名作家の一人に対して抱く期待をそのまま持てばいいわけだけれど、芸人には何を期待すればいいのだろう。
そんなことを考えた。
ショートショートレストラン ファビアン
安定のファビアン。商業作家はやはり違うよなと思わざるを得ない。一つ頭が出ていた。
「ドーナッツ♪」はアイディアもよいし話もエモくてめちゃくちゃよかった。食べると「ド」など音のなる「ナッツ」が日本に上陸した話。最初から最後まで通して優しくていや本当この言葉濫用するのもなんだけど、エモかった。
「肩と私と時々キノコ」はアイディアそのものは他の人でも思いつきそうなんだけれど、それの提示の仕方とか、単にキノコが生えるだけじゃなくてそこには法則があって、とかがあって、その描き方がよい。文章が単純にうまいのかもしれない。ラスト可愛かったー。
そして「真夏の果実」。旅先で、万城目学の「八月の御所グラウンド」の逆バージョンみたいに「野球やれますか」って誘われてついていくのだけれど、そこで行われるのは野球ではなくフルーツの生産。これはアイディアすごいわ。で主人公の心情の移り変わりとか執念とかがこの短い枚数できちんと表されていて文学だった。
歌詞とエッセイ トニーフランク
もっとやっちまっていいと思う。おとなしすぎている印象。
ただ自分の心情をストレートに吐き出そうとして、吐き出せている(だろう)ことは、それこそまさに文学の効用なのではないだろうかと思う。
居酒屋で泣く同期、お笑いをやめてしまった先輩。多分わたしはそういう体験をしたことがないから逆に、こういうのを読むと無駄にグッとくるものがある。
次回に期待!
分岐文 赤嶺総理
面白かった。「桜のはなびらが一枚落ちている」などの同じ一文から始まる文章をいくつかまとめて書いたものたち。春、夏、秋、冬、新年、芸人、という題材で分けて書いてある。
これも構成自体のアイディアは普通なんだけど、題材とあとちゃんと畳み掛けてかけてくる感じが良かった。「桜のはなびらが一枚落ちている」の最後の一文好き。
あとは「まだ花粉症になっていない」とか「合唱コンクールの課題曲」「楽屋に忘れられていた」が好きかな。あと「冷やしそうめんのつゆのアレンジ」はなんかあるあるで笑った。
この前YouTubeで見た「分類番号913」が出てきて少しよかった。
まとめ
結構読みやすくて、分厚さの割にはサクサク読めた。又吉、ピストジャム、ファビアンの安定感があるから、安心して手に取れるし。感想書いてて、最近エモいの好きなんだなって自覚した笑。エンタメ的要素がファビアンのショートショートくらいにしかないので、ガチエンタメ好きの人的には「何も面白いこと起こらんじゃん」となるかもしれない。
出版区というYouTubeチャンネルで、有名人に10,000円渡して本屋で買い物をしてもらう、という企画があってそれに芸人の人もたまに出ているけれど、ガチ文芸好きが出たらどうなるのかちょっと見てみたくもある。誰か出てたかしら。個人的にはピストジャムに出演して熱く語ってほしい。みてますかー、出版区さん、つぎピストジャムさん出してくださいー^^
こういう芸人さん増えるといいけど、いわゆる芸人の人ってあんまり小説や詩歌を読まないのかなあ。焼肉ばっかり食べている印象。あと漫画はよく読んでいる話を聞く気がする。麒麟の川島とか?すごいってイワクラが言ってた。面白いのにね、文芸。純文もエンタメも。
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