【歌集感想】たんぽるぽる / 雪舟えま

各界に好きな人が多い雪舟えまの「たんぽるぽる」をついに読んだ。言葉の感じが好きだと思った(語彙力)。何が好きなんだろう、あんまりまだ言語化できていない。やわらかい言葉遣いの中にときどきドキっとするような鋭さがあったりして。
女性っぽさが苦手なので、そういう歌は少しアレだったけれど、全体的に甘いと言うよりは柔いという感じでとてもよかった。

好きと思った短歌をいくつか。

逢うたびにヘレンケラーに[energy]を教えるごとく抱きしめるひと

ヘレンケラーの「water」のエピソードって今の子達も知っているんだろうか。それを知らんと楽しめない歌なのだが知っているとかなりグッとくる。
目も耳も不自由なヘレンに言葉を教えるには、根気強くそのことに触れさせて印象付けていかなければならない。そうやって、何回も何回も本気で抱きしめてくるひとがいる、そのことのかけがえのなさみたいなものもが表されていると思った。

おにぎりをソフトクリームで飲み込んで可能性とはあなたのことだ

おにぎりをソフトクリームで飲み込むって何じゃと思うのだけれど、喉に詰まったおにぎりを水分がわりのソフトクリームで飲み下す様を見て、「おおすげえな」と思ったということだと思うのだけれど、そう、可能性って想像もしていなかったところに転がっているもので、そして自分にとってその想像もしていなかったところっていうのがあなたの行動や思考であると述べているのだ。
好きな人の向こうに可能性が無限に広がっているように見えるというのは、よいことであると同時に相手への畏怖でもあり、単純な気持ちでは無いだろう。でもあなたがわたしをどこか違う次元に連れて行ってくれるという予感もあって、それはとても力強い確信だと思う。

蜘蛛だけが友達だったときがある。愛し合うと思い出しそうになる

蜘蛛って益虫で、しかも家にいがちでいなくならないから、確かに孤独な人が蜘蛛だけが友達と思えるような瞬間ってあるかもしれないというその言葉のチョイスがまずよかった。そして、今は愛し合う人がいる。そして多分、それ以外にも友達がたくさんできたんだろうと思う。けれど、一番大切な人と愛し合うと、一番大切な人とさえ本当には分かり合えないという孤独がふいに沸き起こって、だから「雲だけが友達だったとき」を思い出してしまう。これは温かくも寂しい、しかし、寂しくも温かい歌だ。

 

という感じ。自分には無い視点がたくさんあって楽しく面白く読んだ。