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たべのこし(岡部杏里)

文フリで購入してきた一冊。2023年の冬の文フリに合わせて作られた作品集「ごあいさつ」に載せられなかったうたを集めたというもの。なるほどだから「たべのこし」だったのか。ふむ。

短歌自体はすごく読みやすい。普段短歌を読まない人が読んでも心に届く物がありそうで、普段短歌を読む人が読むとそれ以上に感じるところがありそうでって感じ。

やわらかい言葉で世界をだけど的確に捉えている歌が多いという印象だった。けどどれだけのさびしさを抱えているのだろうと思った。平易な言葉が多いけれど、選び方や並べ方、繰り返し方やぼやかし方で、多層的というか深みがある歌になっている。

少し感想を。

カラフルなシティーポップを聴きながらモノクロームの街を歩いた

一見「カラフル」と「モノクローム」の単純な対比と「シティー」と「街」の重なりなんだけど、だからこそストレートに伝わってくる強烈なさびしさとかむなしさとかそういう心の重たい感情がある。
ティーポップってなんかオシャレでかっこよくて今は海外でも人気らしい。そんな華やかな(ときにメロウな)音楽を聴きながら、でも歩いている街はモノクロだ。それは気持ちの問題で街がモノクロに見えるのか、それとも街が本当にモノクロのように単調でつまらない景色なんだろうか。

大雨があがったあとのこの街のあちらからひとこちらからひと

これ好き。言葉の並ぶ音も好きだ。人々が自分たちの家や店やオフィスにこもって大雨をやりすごしたあと、雨の上がった街に次々に戻ってくる。あちらからもこちらからもどこにいたんだよーってくらい、そして足取りが多分少し軽い。

なんか希望の歌だよな。大雨が上がればまた人が街に戻ってくるんだっていう、単純だけど大きな希望。この雨上がれと、空に祈ってしまう。

ぺこぺこのからだを水でたぷたぷにしたあと米でぱんぱんにする

この歌に限らずいろんな歌にオノマトペが自由に踊っていて楽しい。わたしもこれから水でたぷたぷにして米でぱんぱんにするぞ。その単純な幸せよ。

生きていることがこんなに楽しくてたまらないっていうように犬

つまり自分は生きていることがこんなには楽しくない。だからこの犬を羨ましくもあるしなんとなく卑屈な気持ちもあるんだけどそれ以上にこれも希望の歌だと思う。「生きていることがこんなに楽しくてたまらない」と思う存在がいるくらいには、この世界は生きていて楽しいはずなのだ。それは希望以外の何物でもない。自分は今はそうは思えないかもしれない。だけど、この犬が希望なんだよ、犬。と、うちの長犬は寝てるだけだけど。

 

堪能しました。