【歌集感想】シンジケート / 穂村弘

知らぬ間に、穂村弘の歌集の新装版が出ていたので読んだ。実は穂村弘の歌集を読んだのはこれが初めてだ。短歌の作り方とかの本はいくつか読んだが、歌集そのものを読むことがあまりなかった。なぜかは分からないが、まあ機会が無かったのだろう。友達(といってよければ)が穂村弘を好きだと言っていた気がしたので、読んでみることにした。

全体的に80年代って感じがすごかった。恋愛観も性の感じも、「カルアミルク」の世界みたい。同時代的に味わっていたら、また違った感想があったかもしれない。
「おれ」「おまえ」という人称も、わたしにとっては逆に新鮮だった。いつもよむような短歌は「ぼく」「きみ」「わたし」「あなた」が多いように感じているので。「おれ」「おまえ」なのに女々しいところがよかったな。

そういう意味では、感情移入したり「そうそうそうそう」と同意したりして読むというより、トレンディドラマを眺めているみたいな気持ちで読んだ。けど「孤独」は全世代的に共通な感情なのだろうなとも思った。

いろいろ書いてみたけれど、全体的にとてもよかった。これを80年代にやっていたということに意味があると思う。今は口語のポップで都会的な短歌も珍しくないけれど、当時としては画期的だったんじゃないかと思うし。

個人的に、結構言いさしとか体言止めとか多用されていて、親近感を持った。勇気を持てる。

いいなと思った短歌をいくつか。

馬鹿な告白のかわりにみずぎわでゴーグルの中の水をはらえり

情景が浮かぶし、これもなんだか80年代的なんだよな。カッコつけてしまっている感じが。気持ちめちゃくちゃ盛り上がってるのに、ゴーグルの水なんかはらっちゃって。80年代くらいまでって、男の人がめちゃくちゃカッコつけだったんだよな。知識としてしか知らないけれど。

ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は

鳥の雛とべないほどの風の朝泣くのは馬鹿だからにちがいない

なのに泣いちゃう。

冬の朝の音階を聴く散水車の運転手のようにさみしい朝は

寂しいのだろう、基本がこの人は。だから短歌をやるんだと思うし。いや今は知らないけれど、このときは少なくとも。そして恋が切ないのだよな。

わたしは性嫌悪なので性的な匂いのする短歌が苦手なのだけれど、これなんかはよいと思った。

花の名の気象衛生めぐる夜きれいで恥知らずな獣たち

なんか健全に、けどライオンみたいに興じているような気がして。

また短歌の書き方の本も読んでみようかと思った、初心に帰って。初心に帰るというか、いまだに初心者を脱せないのではあるけれど。