「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」「鏡石異譚」「邪義の壁」「一八九七年:龍動幕の内」「検疫官」「アメリカン・ブッダ」の6作からなるSF短編集。
「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」では、雲南省とベトナム、ラオスに曲がるところに、VRのヘッドセットをつけて暮らす少数民族スー族の集落がある。
「鏡石異譚」では、あるとき神隠しにあった(とされる)主人公が未来の「私」に出会うようになる。私は「私」がしてくれる注意、助言に基づき行動していく。そのおかげで、未来の「私」が経験したいやな目に遭わずに済んだ。
「邪義の壁」では、「歴史の寄木細工」と評された主人公の実家には、古くからウワヌリと呼ばれている壁がある。和室の北側の、何も飾られていない白壁がそれだ。あるとき祖母が主人公を「オトリアゲ」すると言って……
「一八九七年:龍動幕の内」では、1987年の大英帝国が舞台。あるとき、清からきている孫文こと逸仙が主人公ミナカタに「奇妙な噂を聞いた」と話題を持ちかける。「ハイドパークに天使が現れる」のだと。
「検疫官」では、ジョンは空港で働く検疫官。「人から人へ伝染し、流行すれば甚大な被害を及ぼすもの」としての「物語」を国内に持ちこませないようにする仕事に従事して居る。あるとき、子供が一人足止めされていると聞いて……。
「アメリカン・ブッダ」では、人類は、「大洪水」から、土地を捨て、Mアメリカに移住した。大洪水とは、複合した災害の総称で、その発端は致死性の昏睡病の広まりだった。そのMアメリカに移らず、元のアメリカ(エンプティ)にとどまり生き残ったアゴン族の青年ミラクルマンが証人を務める。アゴン族とは、ネイティブアメリカンでは唯一、仏陀の教えを広める民族だった。
<全体の感想>
かなり面白い。仏教や物理学の知識があればさらに面白いだろうけれど、無くても十分に面白い。ただ、難しいので、ついていけない人はついていけないかもしれない。なので柴田勝家がメジャーになる日はおそらく来ないかもしれないが、かなり面白いので布教はしていきたい。
発想がまずすごいいいんだけど、現実から離れた場所ではなく根差した場所に物語が存在していて、すごく面白い。
<ネタバレあり>
「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」は、そんな民族がもしかしたら本当にいるのかもしれないと思わされた。設定が緻密でよい。スー族が暮らしているVR空間の、スー族の宗教的、宇宙の真理を詰め込んだ世界、のぞいてみたい。
「鏡石異譚」は新しい素粒子「記憶子」という概念がすごい面白かった。やはり設定が作り込まれているので、「もしかしたらそうなのかもしれない」と思わされる。
「邪義の壁」は、おぞましいの一言に尽きる。次から次に出てくる異端とされる仏教の仏像。そしてラストが怖すぎるわ。でもやっぱ田舎にこういう家あるんじゃないかとか思ってしまう、筆力がある。
「一八九七年:龍動幕の内」は、なんかよかった。AIみたいな技術でカリスマ性を持たせ、人を操ることができる。当時にそんなものがあって、定期的に公園に天使として降臨したら、そりゃ人々は信じるし畏怖するよねと。
「検疫官」は実はめちゃくちゃ好きで。「物語」を伝染病とするアイデア自体は多分別に新しくないんだけれど、入管で入国できていなかった少年(アップステアー)が検疫官との会話の中で、逆に物語を獲得していって、最後には革命を起こし君臨する。結構エモい。
「アメリカン・ブッダ」も、設定がとてもよい。Mアメリカとエンプティの交信。ミラクルマンがMアメリカの人々に、アゴン族に伝わる仏教の教えを説きつつ、リアルアメリカに戻ってきて再建しようよと呼びかける。一見胡乱に見えるが、最短距離でそう伝えていることがわかる。面白かった。
