本の背骨が最後に残る(斜線堂有紀)

「本の背骨が最後に残る」「死して屍知る者無し」「ドッペルイェーガー」「痛妃婚姻譚」「『金魚姫の物語』」、「デウス・エクス・セラピー」「本は背骨が最初に形成(でき)る」からなる短編集。特に好きだと思ったのは、表題作と「死して屍知る者無し」だった。

◼️表題作「本の背骨が最後に残る」
紙の本が無くなり物語を語る人が「本」となる。一人の「本」は原則として一つの物語しか語ることができない。
本には誤植が見つかることがある。ある本とある本の語る同じ物語の中に、食い違いが発生することだ。こうした場合「版重ね」が行われる。この版重ねというのは……

設定がぶっとんでいてまず驚かされた。版重ねの手に汗握る展開には本当にドキドキさせられた。こんな世の中になる日は絶対来ないのだが、こういう世界があるのかもしれない、あったのかもしれないと思わせるリアリティがあった。

◼️「死して屍知る者無し」
あるコミューンの話。ここでは人は加齢や病気や怪我で予後不良となると転化(てんげ)して動物に生まれ変わってまた生きていくことになる。
あるとき主人公くいの好きなミカギが川に流されて、驢馬に生まれ変わってしまう。くいのことをそれでも覚えているようで、よくなついた。しかしあるとき主人公が山羊になったおじいちゃんの食べ物を探しに森の中に入っていくと……

この話もコミューンという設定がとてもよかった。師によって生まれ変わり再び生きていくという希望があればこそ生きていけていたという人間の弱さ。ラストが最高で、最終的にはああなってしまうのだけれど、こんな怖いものだから隠されていたのだと知る。でも現実の読者であるわたしたちは、そもそもそれがそれほど怖いものだとうことを知っていて、でも考えずに生きていけるわけで、それなら目を逸らさずにいるべきなんだろうかとか、思った。

というか斜線堂の短編集すごいな。以前と比べると格段に文章もうまくなっているし、話もしっかりしているし、読んでいて唸ることが増えた。こんな力つける???すごいよ斜線堂。設定も本当よく思いついて、そこから無理なくしかし必要な箇所では飛躍して展開して。いやー一生ついていくわ。