【読書感想】パラークシの記憶 / マイクル・コーニィ

マイクル・コーニィ「ハローサマー、グッドバイ」の続編。だが、前作を読んでいなくてもまったく問題なく楽しく読める。ただ、前作のラストのネタバラシがあるので、気になる方は「ハローサマー、グッドバイ」から読んでみた方が良い。

さて、本作。

17歳のハーディはあるとき父ブルーノに連れられノスの村へ行く。ブルーノがノスの長と話をしていう間ハーディは海で船に乗る。そこで溺れてしまい、茶色い瞳のチャームに助けられる。二人は初めから惹かれ合うが、ハーディの住むヤムの村はノスの人間を「水掻き持ち」と言い、ノスの村はヤムの村の人間を「根掘り虫」と言って互いに少なからぬ蔑みの気持ちを持っていた。

この星は暖かい時期と寒い時期を繰り返していく。ヤムの村では暖かい時期に狩りや耕作で食料を備蓄し寒い時期をやり過ごすが、ある時期から寒い時期がきつくなり、暖かい時期にも狩りも不発、作物は不作と食糧難に陥っている。ブルーノとハーディがノスの村を訪れたのは、漁で得た魚を融通してもらうためだった。

そして食糧難はますますひどくなっていって……

 

 

<ネタバレあり感想>

めっっっっっちゃくちゃ面白かった。SF恋愛青春小説でもありシンプルにSFでもありなんとSFミステリでもある。最初は設定を理解したり用語を覚えたりすることでちょっとひっかかりがあるが、そこを超えるとグンと面白くなる。

記憶が次の世代へ、次の世代へと伝わっていくという設定があらゆる場所に効いてくる。そしてスタンス叔父がその記憶を遡る「星読み」ができないことによって、逆にスタンス叔父のカリスマ性が上がる。「俺の記憶に疑義を唱えるのか」とすごみ、長としての強い態度を示し、最後の方は信仰について村人に説諭し村人を従わせることすらできている。

恋愛青春小説としては、美男美女が出会った瞬間に恋に落ちて、さまざまな障壁を乗り越えて幸せに暮らしていくという話なのだ。二人の間に誤解が生じたり何か葛藤があるということもないので、なんか惚気を聞かされている気分になる笑

ミステリとしては、父ブルーノを殺害し、ハーディをも殺そうとしているのがスタンス叔父であることはハーディも確信を持っていたが、最後に証拠も出てくる。スタンスは過去世代の記憶を読む星読みができないので、それを知っているブルーノのことが信用できなかった、村人にバラされ失脚することが怖くて殺した、というだけの話なのだが、各場面場面でのスタンスとブルーノ、あるいはハーディ、ワンド、ロネッサなどとのやりとりで、その恐怖と恐慌がリアルに感じ取れる。が、スタンスに感情移入することはないのだが。

しかしロリン。ロリンは人型でけむくじゃらで人畜無害。と思っていたが、キキホワホワの話を聞いた後では、ロリンが地球人の炭鉱で邪魔になっていたのはわざとなんだろうな。そしてスティルクがロリン、キキホワホワが住むのに適した星にするための準備種族だったことは、驚いた。わたしは、ロリンがスティルクの祖先種族なのだと思って読んでいたのだ。だから、子孫種族であるスティルクをときに助けてくれるのだと。が、そうではなく、ロリンこそがキキホワホワであり、その先行種族のスティルクはロリンとその住まう洞窟(キキホワホワの宇宙こうもりの小さいバージョン)を保ち、発達させるために存在している。びっくり。全部の話が、ひっくり返るというわけではないんだけど、すべての出来事がそのために存在していたと知ると、切なくなる。ロリンは自分たちのためにスティルクを生存させているにすぎない。

でもその中であってハーディは強い。そういった目的を持った種族であるスティルクとして誇りを持って生きていこうとする。ハーディを信じてロリンの力で40年の大凍結を生き延びた人々は、ハーディを長としてまったく新しい世界(そこでは男女が一緒に住み、ともに畑を耕し狩り、漁をする)を作っていこうとする。その決意の美しさに、切なさと共にとっても清々しい読後感を味わうことができる。

あー面白かった。うまく説明できない。結構長い小説なので読むのを躊躇する人もいるかもしれないが、とにかく面白くて一気読みできる(といっても長いので一気には読めない。どっちやねん笑)ので、多くの人に手に取ってほしいなと思う。

 

 

 

 

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mah_ (@assa-ghost.bsky.social) 2024-09-30T01:45:05.892Z

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