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【読書感想】タイムマシンに乗れないぼくたち / 寺地はるな

 

 

ひっさびさの、寺地はるな。

はるなさんはかつてはてなブログでめちゃくちゃあほほど一段抜けて面白いブログを運営しており、はてな界隈ではそもそも有名だった。おもちくんの成長もみんなで見守った笑。そしてわたくしのような下民ともお話ししてくださった。そういうイメージがあったので、小説をなかなか読むことができなかった。もしつまらなかったら、もしわたしの嫌いなタイプの小説だったら、もし、もし。そういうもしが重なって読めなくなっていた。お分かりいただけるだろうか。

さて、そういうことで満をじして読んだ「タイムマシンに乗れないぼくたち」は「コードネームは保留」「タイムマシンに乗れないぼくたち」「灯台」「夢の女」「深く息を吸って」「口笛」「対岸の叔父」7作からなる短編集だ。

「コードネームは保留」は暗殺者をきどるというライフハックで生きていく女性の話、「タイムマシンに乗れないぼくたち」は子どもたちになじめない男の子の話、「灯台」は第三者として生きていく女性の話、「夢の女」は夫の死後の話、「深く息を吸って」は閉塞感のある地方の中学校である映画俳優に憧れる女生徒の話、「口笛」は兄の子(姪)の保育園の迎えを担当している女性の話、「対岸の叔父」は親族から変わり者扱いはされているが憎まれてはいない変わった叔父やその子と関わる男性の話。

 

<ネタバレあり>

いやほんとよかった。どの小説も主人公が何かを抱えていて(まあ小説なんだからそりゃそうだろうけど)、それが解決しないで終わるのがよい。現実の世界を生きていくわたしたちの問題って、だって解決もしないものだから、そこがリアルだった。

とくに表題作「タイムマシンに乗れないぼくたち」は心がずんとした。
三ヶ月前にその街に転居してきた十二歳の草児は博物館に入り浸っている。草児は両親の離婚で母親に連れられて母親の実家に越してきた。これまで住んでいた街とはまったく違う場所だ。少しぶっきらぼうな言葉使いのおばあちゃんにも少し緊張してしまう。母もシフト制の仕事のため家族とはいえそれぞれ別々に生きているように感じた。自己紹介のときイントネーションをからかわれ友達たちを作ることもできなかった。人間等のはこんなふうに「ひとり」になる。
ある木曜日、博物館の休館日に同じように博物館へよく来る男性と話をして……
と言う話なのだが、とにかくとにかくとにかくいい。こんなふうにわたしも一人だったと感じて読んでしまう。別に一人じゃなかったのに。そのくらい文章表現は言うまでもなく、情景描写、心理描写、過剰じゃなさ、すべてがうまい。これからもきっといろいろあるけど、きっとうまくいくよと背中を押したくなるし、それは同時に自分自身の背中を押すことにもなる。そんな作品だ。

「対岸の叔父」も最高だったなー。

そのほかの作品も、人の心のすごいニッチな感情を描くのがうますぎる。こんなこと思っちゃいけない、と人が押し込めてる感情を解放してくれるものもある。「ざわつき」ではなく「ざらつき」という表現が小説内でも出ていたが、まさにざらつく小説もある。読者に細かい傷と残していくような。

ハートウォーミングというのではないのだよね。ほかの作品を読んでいないからちょっとわからないのだけれど、人の持ってる小さなけれども確かな気持ちを言語化するのがうますぎる。

文フリの「編集に怒られる」か何かで「いつもの寺地さん」という言われ方をするみたいなことを書いてあったような気がするのだけれど、それだけ特徴的な視点なんだろうなと思った。

大変面白い読書体験でございました。全員を応援したくなりましたし、さきほども申しましたがそれはひいては自分自身を応援することでございます。

とてもよかった。またほかの作品も読もうと思う。