【読書感想】プロジェクト・モリアーティ1絶対に成績が上がる塾 / 斜線堂有紀

*この作品は、「ナゾノベル」という小中学生向けのシリーズの一作。漢字にルビがふってあったり、小中学生が知らないような単語(東西冷戦、素数、など)は注釈がついていて理解できるようになっている。

 

私立塀戸中学に通うごく普通の中学生和登尊の前に現れた転校生の杜屋譲。転校初日から日直の生徒のピンチを気付かれることなく救った杜屋。そのことに気づいた尊は杜屋を尾行し、気づかれ、話をして杜屋の行った行動について問いただす。「この世界をちょっとだけ正しくしたい」と話す杜屋は、写真記憶を持つ尊を助手にしたいと話す。このようにして二人の関係は始まっていって……

「絶対に成績が上がる塾」の真実を知った尊と杜屋は、この塾に通う山木さんを助けるとともに「塾を潰す」と目論む。そのために、尊は杜屋に言われるがままに努力し、杜屋は考え、そして実行していく。そしてついに二人は……!

 

<ネタバレあり>

杜屋は、斜線堂作品で言うと、「シネマ探偵カレイドミステリー」の嗄井戸や「死体埋め部」の織賀に近い、万能にしてすべてを見通せる、人を操る素質を持つ少年。よく使えばよき能力、しかし悪くも使えるはずで、尊も「こいつ人騙してるんだから悪いやつ」と思ったり、「本当にこの世でいちばん正しくてまともで優しく、清廉潔白な人間」と思ったりと、印象は二面に分かれている。

今回の事件は、「絶対に成績が上がる塾」が舞台となっている。
蓋を開けてみれば、大して腕のない講師が恐怖政治をしき、塾生が必死で勉強して成績が上がっていくというシステム。そしてさらに他にも「点数を売る」などおよそ教育者としてふさわしくないことを行なっている。
この塾を潰すために入塾した二人は、いろいろあって、尊は満点とらされたり、杜屋は頭を使って、ついにはこの恐怖政治を敷いていた「陽明」を告発し、塾を潰すことに成功する。

ってあらすじほぼ書いてしまった。
書くとそれだけの話なのだが、子どもにわかる平易な言葉え、なんとなく小学生が読者なら中学生に憧れられるようなかっこいい主人公とその相棒(ボス?)。自分達も何か世の中のために誰かの悪事を破ってやりたいと思わせるような事件の解決。この辺の見せ方が本当にうまいなと思った。これ小学生が読んだら憧れる、普通に。
大人が読むと、どうなんだろ。わたしは杜屋のことすごい好きだけれど、塾の職員が杜屋に言ったこのセリフが実際にそのとおりになって、自分が仕掛けられる側になってしまう気がする。

君はこれをやめないんだろう、秀才くん。でも、覚えておくことだ。自分が何を選び何をしたかをね。人をいいように操ろうとすれば、きっといつか自分の人生に返ってくることになるぞ。

このセリフは実際にその通りだし、杜屋はシリーズのどこかでそのせいでピンチに陥ることになるだろう。尊は無著に杜屋を信じているが、そんな綺麗なものじゃない。

「人を操る能力」については100時間くらい語りたいことがあるのだが、この能力を持つものは大概が苦悩することになる。
しかしそれも見守りたい。これはもはや母心だ。
その一方で、無双し続けて欲しいと言う気持ちもある。これは小学生のわたしがきっと期待しているんだろう。